その部屋の中では、炭治郎は痛みに耐えまくり、善逸は1人騒ぎまくった。そして落ち込みまくる伊之助を両側から2人が励ましまくる。
そんな3人組の隣にあるベッドではユウが死んだ様に寝ていた。


「ね、ねぇ炭治郎?これ本当に大丈夫?ユウさんもう何日も寝てるけど……」
「錆兎さんと義勇さんが言うには問題無いって言ってたけど……。でも確かにご飯も食べてないし少し不安だよなぁ」
「あのクソイケメン2人なぁ〜っ!!いいよな!顔が良い奴は!!……伊之助が落ち込んだのって義勇さんが関係してるんだろ?あの人天然だよな〜」


音が天然天然してる、とよく分からない言葉を善逸は呟き布団へと戻る。炭治郎はそんな善逸を見て、ユウへと視線を向けた。


「……ユウさん、怪我が治ってなかったのに俺達の事助けにきてくれたんだよな」
「それな〜!天使だよなぁ〜!!綺麗な顔して怖いかと思ったらすんごく優しいし。……まぁ怖い時もあったけど。…………この人化け物かよって思った事もあったけど。でも音も不思議なんだよなぁ〜。なんか寂しい音がしてるんだけど、ほかほかあったかい感じの」
「あぁ、分かる。基本的に冷えた匂いがしてるけど、俺達の前とかだと太陽みたいな暖かくて優しい匂いもしてる」


うんうん、と2人してまだまだユウの事を言い合う。
たった数日だけだったが、ユウがどんな人物なのかは理解している。だからこそ不思議なのだ。禰豆子を傷つけた不死川が言っていた「多く殺したいだけ」とは一体なんの事なのだろうか。


「…………君達、人が寝てるのを良い事に色々言うねぇ」


少し照れた様子でユウは上半身だけ起き上がる。
喋っていなかった事もあり、少し声はかすれていた。


「おっ」
「お?」
「起きたぁあああああ!?ユウさんが!!起きたーーーー!!」


廊下がドタドタと騒がしくなる。
善逸の叫び声によってユウの起床は伝わったのだった。







炭治郎がこそこそとこっちを探る様に見ているのは知っていた。そして善逸も何かあったのかとユウへとチラチラ視線を向けているが、友人なら直接聞けと思っている。


「……あ〜、炭治郎?聞きたい事があるなら聞いていいよ。答えるかは別だけど」
「あっ!?えっ、その」
「た、炭治郎〜!俺も気になるからはっきり言ってよぉ〜!!なぁ伊之助!お前も気になるよな!?間に挟まれてるし!」
「ちらちらちらうっぜぇ!かまぼこ権八郎!言いたい事があるならはっきり言え!ウゼェ!」


伊之助も少しづつ調子が戻ってきており、最初の時よりはいつも通りになっていた。2人に背中を押された形で炭治郎は口を開く。


「あ、あの、その、け、血鬼術は大丈夫でしたか……?」
「あぁそっか。炭治郎は知らないんだっけ。怪我が完璧に治ったらどこまで利用可能か調べるんだよね。鬼にかけられた物は消せないけど、なるべく薄く出来るように上からかけ直す予定になってる。いや〜でも血鬼術って便利だよねぇ。鬼の気持ちもちょっと分かったわ〜」
「えっ!?ユウさん血鬼術かかってんの!?大丈夫なの!?それ!!??」
「善逸って耳良いんだっけ?多分善逸も使えるんじゃない?もしかしたら。音を使って身体をコントロールするみたいな血鬼術でね、その音真似したら使えるようになった」
「なにそれ〜!!!!!???」


ユウさん凄〜い、と善逸は目をきらきらさせている。まさか自分以外にも耳がいい人がいるとは、これはもう運命なのでは?と結婚を迫ろうとした時、ユウが大きく溜め息を吐いた。


「もう1個聞きたい事あるんだろうけど、そっちの話題は外の2人も一緒でも良いかな。……2人共入ってきなよ、バレてるよ」


ユウが扉へと声をかけると扉がゆっくりと開く。確かに言われてみれば人間の音や匂いが2つしていたが、いつの間に居たのか善逸と炭治郎は気付いていなかった。


「あーっと、起きたんだな。おめでとう」
「はい、ありがとう。錆兎」
「ユウ、どうだ?」
「まだ本調子じゃないけど良くはなってる。……やっぱり君は言葉が足りないねぇ、義勇」


錆兎は少し居ずらそうにいつもの椅子を用意してユウの側へ座った。義勇は嬉しそうに錆兎の隣に並んだ。


「で?……言ってみなよ、炭治郎」
「あ、……あの、禰豆子を傷つけた人が言っていた事って、」
「私の噂は知ってる?」


布団の近くに用意されていた水に手を伸ばしながらユウは錆兎へと聞いた。錆兎は目線を揺らしながら、肯定を口にする。
優しい彼の事だから口にくるのを憚っているのだろう。いいよ、とユウは頷いた。


「……鬼も人間も見境が無い、殺しの継子だと」
「それ、一応は間違ってはいない」
「…………えっ!?はっ!?ああ??」


善逸は頭の中が整理出来ないのか、疑問で頭がショートしそうになっている。音でユウが嘘を言っていない事が分かっているのだろう。「この人やっぱり化け物…?」と表情がありありといっている。
ふはっ、と善逸の表情にユウは声が漏れてしまった。


「私ね、家族を鬼と人間に殺されてるの」


飲み終わった水の入ったコップを戻し、ユウは顔を下へ下げた。


「鬼に襲われた時に何とか妹と逃げ出して。そこで見かけた知り合いの男に妹を託して、私は母達の所へ戻ったんだよね」
「……なっ」


錆兎が信じられないと顔を歪めた。察しのいい彼はきっとどういう事なのか一瞬で悟ったのだろう。


「母達は鬼に殺されてた。ま、仕方がないよね、ただの人がなんとか出来るわけない。……そこに師匠が来て鬼を殺してくれたんだ。師匠と一緒に妹を迎えに行ったら、妹は託した男に殺されて……死体を、」
「もういいっ!」


錆兎は椅子から立ち上がりユウを抱きしめた。もういいから、と錆兎の声は震えている。
義勇や善逸、炭治郎は詳細までは理解出来ていなかったが、あの錆兎が狼狽える程の酷い内容だという事は理解出来た。もし禰豆子が町の人達に殺されたら、と炭治郎は背筋が凍る。町1番の美人だった禰豆子が、町の男に殺されるなんて想像も、と思った所である1つの仮説が浮かんだ。
……禰豆子の意思を無視し、事に及ぼうとして抵抗されたが故に殺されたら?


「……っ!!」


冷や汗が全身に湧き出る。
許せなかった。許せないであろう。いや、絶対に許せない。
ただの仮説だったが、ユウは炭治郎の青ざめた顔をみて「ごめん」と謝った。


「やっぱり細かい事まで話す必要無かったね。ごめんね、炭治郎。禰豆子はきっと大丈夫だよ」
「ユウ、さん」


炭治郎は痛む身体に鞭を打ってユウの布団まで向かう。錆兎が抱きしめている反対側から、炭治郎もユウへと抱きついた。


「ごめんなさい、俺、俺っ」


こんな事を聞いてしまってごめんなさい、と抱きつく力をほんの少し強める。ユウはほんの一瞬顔を歪めたが、笑顔を浮かべて炭治郎の頭を撫で始める。反対の手で錆兎の背中を軽くたたき出す。


「もうふっきれてれるし、大丈夫だよ」
「大丈夫な訳無いだろう……っ!大丈夫な、訳っ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!それなのに、禰豆子の事……っ!ありがとう、ございますっ!」
「えぇ、ちょっと、2人共、やめて……。やめ、てよっ」


ユウの撫でている手と叩いていた手が止まる。顔を錆兎の肩へ埋め、錆兎と炭治郎を強く抱きしめ返した。


「……本当、君達ってずるい」


くぐもった声は確かに少し震えていた。
善逸もそのユウの様子と音に炭治郎の上から抱きつき、伊之助も仲間外れにされるのは気に食わなかったのか、よく分かっていないだろうに善逸の上から突っ込んだ。
義勇だけ大人しく椅子に座ってユウにくっつく皆を眺めていた。タイミングを逃してしまったのか、口元をもごもごと動かしている。
その大勢の抱擁はしのぶが来るまで続いた。







「良いですか!?ユウさんはまだ怪我が完璧に治って無いんです!それなのに大勢で潰したら駄目でしょう!」
「し、しのぶ私は大丈夫だから」
「黙ってて下さい!ユウさん!そうやって貴女が甘やかすからこうなるんです!大体、錆兎さんも錆兎さんです!ユウさんが大事なら率先して潰さないで下さい!冨岡さんも止めて下さいよ!」


しのぶが鬼に見える……とユウがぼそりと言った言葉を善逸はちゃんと拾って聞いていた。危なかった、あと少し早かったら吹き出していたと善逸はほっと胸を撫で下ろす。


「き、気を付けてはいた!でもユウが無理矢理笑うから、」
「からなんですか!?貴方は無理矢理笑っている女子がいたら、所構わず抱きしめるんですか!?そんなの許されるの極上な美男子のみですけど!?」
「し、しのぶ……あの、話がずれて」
「ユウだったからに決まっているだろう!?ユウが無理して笑っているのなんか見たくない!」
「錆兎さん、ユウさんの事とっても好きなんですね!」


炭治郎の言葉に、錆兎とユウの動きは止まった。
錆兎はユウへと言葉にはしていないが、自分の気持ちをこうして他の人から真面目に言われると恥ずかしいのだろう。錆兎は照れから慌て始めた。


「い、いや、違、違、わな、いけど、違う!」
「好きはちゃんと伝えた方が良いですよ!俺もユウさんの事大好きです!」
「……ぁ、ありがとう、た、炭治郎」


ユウはユウで錆兎の方は見ない様にしているし、返事もカタコトだ。
善逸はケッと吐き捨て、顔を歪めた。何だこの2人、両思いじゃねぇかと音を聞くまでもなくハッキリしている。ただ、1つだけ気になっている事があった。
ユウから何か後悔する様な、諦めた様な、苦しい、痛い音が少し聞こえる。


「ユウさん?」


善逸が小さく呟いた言葉は、ユウに聞こえていた。
ユウは善逸へと視線を向けると人差し指を立てて口元に持っていき、悲しそうに笑ったのだ。

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