ゆらゆらと揺れている中で人の話し声が聞こえてユウは目を覚ます。


「……ん?」
「お、やっと目ェ覚ましたか!」


宇髄の顔が近距離に広がっていてユウは思わず悲鳴を上げたが腹部に圧迫感がかかりすぐに呻き声へと変わった。


「おいおい、師匠の顔を見て悲鳴あげるたぁいい度胸だなぁ。しかしまぁ随分寝てたが、錆兎の腕の中はそんなに良いのか?ははは!」
「……は?」


ユウが寄りかかっていた所を確認する為に顔を向けると、こちらも近くに錆兎の顔があった。


「なっ!?なっ!?なん!錆兎!?って痛っ!!」
「お前は馬鹿か……」


溜め息を吐いた錆兎の息も感じられ、ユウは「うひっ!?」と小さく声を漏らした。頭が働く様になり、冷静に思い返すと自分はとんでもない事を口走っていたのでは……?と恥ずかしくなり、僅かな抵抗として顔を手で隠す。
戻れるのなら、変な事を口走ったあの時に戻りたい。生きてた安堵で見知った顔にほんの少しばかり頼ってしまった気がする。待て待て待て、錆兎に抱きしめられていなかったか、私は!?とユウは1人痛みとは違う呻き声を上げていた。


「宇髄さんもユウをからかわないで下さいよ。本当に死にそうだったんですから」
「へーへー、一丁前に彼氏面かよ。何だぁ?お前らデキてんだっけ?師匠に一言も無しかぁ?ユウ?」
「……デキて無いです…………」
「あーりゃりゃ、こりゃ相当きてんな。錆兎お前、本当にユウに何したんだよ」
「別に何もしてな、」
「抱きしめてましたよー。そりゃもう情熱的に、こう、"ユウっ!"って!!」
「そんな風にはしてない!!」


会話を聞いていたしのぶが止めとばかりに宇髄へと告げ口をする。流石に錆兎も大人しく聞いていられなかったのだろうが、返答によって抱きしめていた事を否定していなかった為、宇髄にユウを抱きしめた事がバレてしまった。
へぇ、と感心する様に宇髄は錆兎の肩を叩く。顔はにやにやと笑っており、しのぶもにやにやと笑い出す。


「なんだなんだ。悪ぃな〜!"まだ"なのかぁ〜!!しっかし男ならドカンと1発かましちまえよ!確か嫁達が色々仕込んでたから、ユウはいい拾い物だぜ?」
「あんなに情熱的に抱きしめといて貰ってあげないとか、男として廃れてますよ。あ!もしかして心配毎でもあるんですか?元気になる薬なら勿論用意しますけど?」
「錆兎はそんな不甲斐ない男では無い。ちゃんとしてる」
「あら、冨岡さん。つまりそれは、女の体を仕方がないとはいえ見た錆兎さんは、ちゃーんとユウさんを嫁に貰うだろうっていう援護ですかぁ?いや〜見た目によらず相方に言いますねぇ!」
「は!?」


ユウは恥ずかしさで会話に混ざれないでいたが、看過できない言葉がしのぶから出てきた。しのぶは知りませんでした?なんて言って確実に楽しんでいる。慌てて錆兎に確認を取る。


「え、何!?どういう事!?」
「あー……悪ぃ。傷の手当ての時に」
「……………………気にしないでいいよ。寧ろ忘れて。いや本当に」
「……行き遅れたらちゃんと貰うから」
「いやだから忘れて!!そんな事に責任感じなくていいから!もし嫁がなきゃいけない事態になったら、師匠に嫁げばいいかなとか思ってたし」


ピシリ、とその場が凍った気がした。
が、当の宇髄とユウは気付かずに続けていた。


「は!?聞いてねぇぞ!?」
「言ってませんでしたし。師匠なんだかんだ言って最終的に"しょうがねぇなぁ"って貰ってくれるでしょ?……えっ!?貰ってくれないんですか!?可愛い弟子の人生最大のお願いですよ!?奥さん方は歓迎してくれてます!」
「お前っ、嫁を先に納得させるなよ!俺の意思は!?」
「だって私が嫁ぐとか、絶対何かしら理由ありますもん。嫁ぐ気ないし。そういう場合、金握らせて嫁いでも、もし巻き込んじゃったら困るし、簡単に死ななそうな人ってなるとやっぱり強い人ってなりますし。そうなるともう師匠しか居ないじゃないですか!」
「いやいやいや、何言ってるんだよ!それこそ錆兎と義勇に頼めば良いだろ!?」
「いやいやいや、師匠こそ何言ってるんですか?義勇と錆兎は強い点ではクリアしてますけど、そんな迷惑かけれません。2人共、顔も性格も良いんですよ!?絶対、絶対!良い子が現れますって!それなのに困ってるからって嫁いだら、責任感の強い2人だから絶対最後まで私の面倒みちゃいます!」


急にユウの本心をちらりと聞いた錆兎と義勇は照れ臭そうに頬を染めるが、もちろんそれにもユウは気付いていなかった。
顔も性格も良いと思われていたのか、ともごもごと口を動かしている2人を見て、しのぶはこの人達、思ったより単純な人達だなぁといった感想を抱いている。


「その点、師匠はもう奥さん居ますし、そういった心配はありません。そもそも今の段階でもう家族みたいなものなんですから、嫁いでも別に今となんら変わりませんよ。師匠なら、娘に口付けする親父みたいな感覚で私に出来ますよね?私もそんな気分でまぁ許せると思うんです!」
「……ま、まぁ」
「初夜だって、師匠程の人なら何とも思ってなくても出来そうだし。こっちのお願い聞いて貰ってるし、私だって別に大事にしている訳じゃない初めてくらい捧げられますし、師匠そういう面倒なのも、一応ちゃんと面倒みてくれる程のお人好しではありますし」
「お、お前……少しは慎みをだな……」
「ダメ!ダメよ!!ユウちゃん!!」


どんどん内容が下世話なものになってきているが、ユウはヒートアップしているのか気にもせず止めない。錆兎と義勇はユウの口から出る言葉に照れていたし、しのぶはウブなんだなぁと2人のコロコロ変わる様子を楽しそうに観察している。
しかし流石の宇髄もユウを止めようとした時、蜜璃が乱入してきた。


「蜜璃さん?」
「ダメよ!ユウちゃん!そんなの勿体ないわ!せっかく可愛い顔に生まれてるんだから!もっと楽しく考えてみましょう?仕方なく貰って貰うんじゃなくて、殿方から嫁いで欲しいって言われたらどう?例えば……あそこに居る無一郎君!」
「え、えぇ?無一郎?…………ダメだ。そんな事、絶対言わない」
「想像するの!」
「……そ、想像ですね…………。いやぁ……断るだろうなぁ…………無一郎は弟みたいな感じだし」
「そうそう、想像して!次、宇髄さん!」
「え、無理。嫁さん達大事にしろって殴る」
「おい、ユウ……お前さっきと言ってる事、真逆だろうが……」
「いいわいいわ!その調子!それじゃあ次は冨岡さん!」


先程まで宇髄に嫁ぐと言っていたユウだったが、逆に宇髄から嫁いで欲しいと言われたら断ると一刀両断にしている。女って怖いな、と錆兎は呆れていた。
逆に名前を呼ばれた義勇は、表情は変わらないが目に焦りが浮かんでいる。


「義勇……義勇に…………?……んん〜。まぁ義勇なら別に良いかなぁ。義勇なら、まぁしょうがないなぁって嫁げそう」
「良いわ、そういう恋も素敵!じゃあ錆兎さん!」


ユウに嫌われていないと悟って義勇はほっと息を吐いていた。そういう事じゃないんですけどね、と何となく義勇の思っている事が伝わったしのぶは呆れている。まぁ、この2人が結婚するなんて想像もつかないが、確かに義勇に言われたら嫁ぐ気のないユウでも最終的に嫁ぎそうな雰囲気はあった。


「………………」
「……あれ?ユウちゃん?」


下を向いてユウは口を閉じてしまった。


「…………あの、ここら辺で勘弁して貰えませんか、蜜璃さん」


冷静になったのかユウはぽつりとこぼす様に懇願していた。そんなユウを逃がさないとばかりに、にやにやと笑うしのぶと宇髄の追い討ちがユウに降りかかる。


「冨岡さんだけ言って錆兎さんは言わないなんて、錆兎さん可愛そうですよ」
「そうだよなぁ!わざわざ怪我してるお前をこうしてお姫様抱っこしてくれてるんだからよぉ。自分の事を嫌いな奴を持つのって結構しんどいよなぁ?」
「え、いや、そんな事、」
「良い奴の錆兎はそう言うしかねぇもんなぁ。あぁ〜可哀想に!錆兎!」


しのぶと宇髄が組んだら、手を付けられなくなる。錆兎はそう実感した。
ユウには悪いが自分には2人を止められないし、それにほんの少し、ユウがどう思っているのかも気になってはいた。ほんの少しだけ。


「…………ほんの、ちょっとだけ、嬉しい」


小声でぽそりとユウは呟く。しのぶと宇髄は騒いでいて聞こえなかったみたいだったが、近くにいた本人にはばっちり聞こえていた。
錆兎はじわじわと自分の体温が上がるのを感じる。
その錆兎の様子を見て、おや?としのぶと宇髄は口を閉じた。


「〜っ!宇髄さん、お返しします!」


錆兎はユウをずいっと宇髄へ渡すと、目がかなり動揺していた。顔も真っ赤になっているし、どうしたものかと宇髄としのぶがユウへ問うと、ユウも顔を手で隠して先程呟いた言葉をさっきより小さい声で呟く。


「キャー!!ユウちゃん可愛い!とっても可愛い!!錆兎さんの事、好きなのねぇ!素敵!」
「ユウさん、罪な女ですねぇ。よく錆兎さん落とさなかったですよ。偉い偉い」
「いや〜俺の嫁もいい仕事するなぁ。こりゃお赤飯かねぇ」
「そんなんじゃないです…………そんなんじゃ、ないんです……」
「錆兎とユウが結ばれるなら、俺も嬉しい」


義勇の一言でユウは羽織を引っ張って顔を隠してしまった。宇髄はそんなユウの様子に笑う。
こりゃ本当に情熱的に抱きしめられて惚れちまったか?と少し揶揄ってしまった事を申し訳なくも思うが、あのユウがこうして誰かを好きになれているなら良かったと、支えている手に少し力を入れた。

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