名前を呼ばれていた、気がした。


「ユウっ!今止血してるからな!絶対死ぬな!」


凄く必死に自分の命を繋いでくれている。
運は、自分に向いていた様だと鬼へと向かって心の中で笑う。もう目を開ける事も表情筋も動かすのが辛い。
でも、声だけで止血してくれている人物はわかった。


「あ、りがと。……錆、兎」
「いい!喋るな!」
「炭、治郎、達がどこかに……」
「平気だ!胡蝶と義勇が二手に分かれて進んでる!もうお前は黙っていろ!」
「……そっか」


ふにゃりと強張っていた全身の緊張が解けた。
一瞬、錆兎の動きが止まった様な気がしたがまた直ぐに止血が進む。
意識がまた無くなっていく。でもきっともう大丈夫だろう、素直にそう思えた。







何か音がしてユウは目をゆっくりと開けた。
どうやら鎹鴉達が炭次郎と禰豆子をお館様の所へ連れて行くように叫び回っている。
──不味い。
禰豆子が鬼だという事がバレてしまったのだろう。


「っっっっ〜!!」


どうにかしなければと立ち上がろうとしたが力が入らず顔面から地面に倒れた。鼻がひりひりしている。痛みで生理的な涙も少し浮かぶ。


「あっ!ユウ!お前勝手に動くな!」


ざかざかと葉を掻き分ける音がしたかと思ったら刀を片手に構えた錆兎が慌ててこちらへ向かっていた。夢じゃない。腹へと視線を向けると止血もされており、確かに、包帯も巻かれている。
……血が、止まっていたのだ。自分は生きているのだ。


「ユウ、止血は済んでいるけれど重症なんだから、」
「……錆兎」
「どっ、どこか痛いのか!?いや、勿論痛いんだろうが……っ!な、泣くな!!どうすれば良いか分からないだろう!」


錆兎に指摘され、初めてユウは自分が痛み以外で泣いている事に気付く。錆兎も、常に堂々としているユウが泣いている事にとてつもなく動揺していた。


「さ、錆兎、錆兎、錆兎……!」
「ばっ!声を出すな!傷に触るだろ!」
「腹が痛い」
「分かったから!声を出すなって言ってるだろ!」
「生きてる?私、ちゃんと、生きてる?……死んで、ない?」
「っ!」


ぼろぼろと安堵から涙が止まらない。
怖かった。鬼は倒せたし、満足はしていた。けれど、段々と近付く、疲れとは違う終わりの感覚。覚悟はしているつもりだった。けれど、どうしようも無く怖かった。


「死んでない!」


ふわりと体に温もりが伝わる。
錆兎がユウの体を包み込んでいた。


「ちゃんと温かい、生きてる、お前は生きてるよ、ユウ」
「……錆兎も温かいね。……私、まだ生きてるんだ」


良かった、と呟くとユウは錆兎に体を預け小さく目を閉じた。人肌の温かさと泣き疲れがあり眠くなったのだろう。大人しくなったユウに錆兎は安堵の息を吐いた。


「……あらあらまぁまぁ!」


錆兎の背後から何やら楽しそうな声が響く。
びくり、と錆兎の体が小さく跳ねるが、ユウを気遣ってか体を離す事はしなかった。


「冨岡さん、見てくださいよ。私達が戦っている間にこっちでは恋愛小説が作れそうな甘〜い雰囲気ですよぉ?」


錆兎が来た方向からしのぶと義勇がひょっこりと現れる。しのぶは良いものを見たとでも言いたげに、にやにやと笑っていた。


「錆兎。……死んでるのか?」
「死んでない。1度起きたが気絶したんだと思う。……流した血の量が多すぎた」
「あぁ、先程の血溜まりはユウさんのでしたか。傷はどんなでした?」
「腹を怪我していた。少し切られたんだろう」


それにしては不思議ですねぇ、としのぶは首を傾げた。


「人間の体って、怪我をしてもある程度は、時間が経てば出血を抑える力が働くんですよ。でも先程の血溜まりは明らかに量が多かったです。ユウさん程なら鬼を倒した後に呼吸で止血位は出来る筈なのに、ですよ?まるでずっと"血が止まらなかった"かの様ですねぇ。……他に怪我は?」
「無かった。一応確認したが腹以外に血が出ている所は見当たらなかった」
「ふんふん、錆兎さんはユウさんの体を探ったと」
「変な言い方をするな。さっきも軽く錯乱してた程だ。この体勢も深い意味はない」
「深い意味はないと。へぇ〜??」


まぁ何も聞かないであげます、と上機嫌でしのぶは笑う。錆兎もずっとこの体勢のまま、という訳にはいかないので、器用にユウの脇に手を入れると軽々と横抱きにした。


「あらぁ!お姫様抱っこですか!お優しい!」
「いちいち茶化すな!……このくらいの"軽傷"になったのなら時間で回復する。宇髄さん所に返せばいいだろ」
「そうですね。一緒にお館様様の所まで連れて行きましょうか」
「なら俺はユウの刀を持っていく」
「頼んだ、義勇」


2人が先頭して先に歩き出した後に錆兎はユウの顔を一瞬見つめてから2人に続いて歩き出す。

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