嫉妬は時に暴走する



◆サーカスの道化師2の後のお話となってます。



ゼンに連れられてオビもミツヒデが居たという騎士団に向かっていた。隣に座っているユウも挨拶の時に1度来たため慣れた様子で座っている。
今回こうして向かっているのは騎士団とサーカス団の共同祭を行い、剣士を増やそうというのが目的らしい。らしい、というものの詳しい話はオビは聞かされていないからだ。
がたり、と振動が止むと少しして馬車の扉が開く。


「お待ちしていました、ゼン殿下、側近殿、ユウ殿」


にっこり、と笑い剣を腰にさしているヒサメが馬車の外で待っていた。







「……主」
「…………なんだ」


すこし呆れた口調でゼンがオビへと渋々返事を返す。2階に居るオビは1階のある一点から視線を外す事なく頬杖をつく。オビの視線の先にはヒサメと仲よさそうに話しているユウの姿があった。


「なんでユウ嬢はここでも人気者なんですか」
「……いや、お前も分かってるだろうに。お前もユウ殿の毒牙にかかったんだから」
「主、いくら主でもユウ嬢のアレ、毒牙とか言ったら吹っ飛ばしますよ」
「毒牙と言わずしてどう言えと?本人から自覚ありと聞いた時、俺は肝が冷えたぞ」


ヒサメと話しているユウの周りにはちょくちょく兵士がやって来ていた。それを見てオビはつまらなさそうに溜め息を吐く。
ユウにはサーカス団にいた時からの癖がある。それは相手の観察であった。どうしたら相手に良い様に写るか、嫌悪感を与えずに出来るか、人を相手にする職業故仕方がないといえば仕方がないのだが、ユウのは些か重症であったのだ。
所謂、やり過ぎている、のである。本人も自覚があるのだが呼吸をする様に染み付いてしまった癖はなかなか抜けないらしい。


「誰でもかれでも愛想振りまいちゃって……」


むすりと頬を少し膨らましながらオビはユウから視線を外し、机に突っ伏すと顔を少しずらしてゼンを見上げた。


「……そんなに俺の顔を見てもユウ殿はこっちを見ないぞ」
「分かってますよ〜そんな事くらい」
「なら良いけどな」


それだけ答えるとゼンは共同祭の書類を眺め始める。既にある程度は決まっており、細かい調整を今はしていた。ユウも前半は色々と口を挟んでいたが、サーカス団の決め事が決まると待っていましたとばかりに兵士に連れて行かれてしまったのだ。
兵士が暴走しない様にヒサメもユウについて行ったがいかんせんそれさえもオビには面白く無かった。
はぁ、と溜め息をまた吐くとオビは目を閉じる。


「ユウ嬢のばか……」
「あ、えっと、ごめんね?」


聞き慣れた声が近くから聞こえ、オビは勢い良く顔を上げた。


「ユウ嬢?」
「うん。ちょっと疲れちゃった所を良い感じにヒサメさんが逃してくれてね。凄い人だよねぇ、副団長をやりながら気も使えるなんて」


その口から別の男を褒める言葉が出てきてオビは顔を顰める。椅子から立ち上がると一階から見える位置にユウを引っ張り、ユウは何事かと首を傾げた。


「オビさん?」
「はい、ちゅーうもーーく!!」


本人は直ぐには直せないなら周りに変えて貰えば良い、と考えたオビはユウの肩を抱いて兵士の注目を集める。


「ユウ嬢、愛想を振りまきたくなるのも分かるけど、やり過ぎ。面白くない」
「え?」
「後で幾らでもお説教は聞いてあげるからじっとしててね」
「え??」


事態を読み込めていないユウは疑問に思いながらもオビの言う通りその場から動かない。それを確認すると声を高らかにオビは叫んだ。


「ユウ嬢を狙ってる奴ら!!悪いけどユウ嬢は俺の恋人だから、きっぱり諦めてね」


言い切るとユウの口に自分の口を重ねた。予想してなかった展開に兵士達は悲鳴をあげ、ユウは目を真ん丸に見開いている。さらにトドメとばかりにユウの口に自身の舌をねじ込んだ。
ユウの口から少しの甘い息が漏れる。


「何をしてるんだ!!お前は!!!!」


スパコーン、と景気の良い音を立てゼンがオビの頭を叩いた。その衝撃でユウはオビから解放されて、その場にへたり込む。


「……っ主!何するんですか!!」
「それはこっちの台詞だ!!お前はアホか?アホなのか?急に何をし出すかと思えば……!!何をしてるんだ!!」
「……主、結構てんぱってません?」
「てんぱりもするわ!!こんな事態体験した事無いからなぁ!!良いからユウ殿から離れろ!!アホ!」


オビの首根っこを掴んでゼンはへたりこんでいるユウからオビを離す。ふるふると震えているユウはゆっくりと立ち上がるとオビをきっと睨んだ。


「オビさんの……馬鹿ーー!!!!」


勢いの良い右手の平手がオビの頬に当たった。
後にオビは"騎士団・珍事件"の上位に食い込んだ出来事となったことを知ったミツヒデ、木々からもゴミを見るような目で見られる事となる。



*****
騎士団から人気のある夢主にその中の誰かと親しく話しているのを見たオビが強引に迫る話。
強引、とまではいきませんでした……。1度はやってみたかったネタをぶっ込む事が出来たので私個人としてはかなり満足です。
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