敵同士で向き合いたいものです



最初は怪しい奴だな、というのがユウの感想だった。まぁこういう裏方の仕事をしている奴は何かしら理由があるものだから、怪しくなるのは仕方が無いのかもしれないが。


「どうも」
「ん?あぁ、あんたが例のパートナーさん?」


最初の出会いも別段変わり様は無く普通。待ち合わせ場所である騒がしい居酒屋に行って、そこで教えて貰った通りの人を探して声を掛ける。相手も確認の様に尋ねてくるからそれに頷くだけだ。


「はじめまして。ユウです」
「こっちこそ短い間だけどよろしくね。あ、オビって呼んで」


偽名なんだろうな、と思いつつユウは差し出された手を握り返した。この業界なら偽名が普通だろうが、考えるのが面倒臭いユウは本名で通す。本名だろうとは思わないそこを突いた作戦である。今の所実害は無い為変える気も無いのだ。


「さて、今回の仕事だけど夜会に潜入して主催者の鍵を盗んで、中にある依頼主の祖母の遺留品を獲ってくる、で合ってるよね」
「はい、そう聞いています」


こくり、と頷く。小さな夜会はどうやら男女ペアのみらしく依頼者の方で相手をどうにか都合を付けてくれたらしい。依頼だけして後はどうにかしてくれ、というのが多いので親切な依頼人だとユウは思った。持っていた大きめな鞄を机の上に乗せる。


「これは?」
「衣装です。知り合いがやってて。流れはお渡ししたものでよろしいでしょうか?」
「あぁ、うん。大丈夫。お嬢さんとペアで入って俺が執事の格好に変わる。その間にお嬢さんが取った鍵を受け取って俺が取ってくる、で良いんだよね」
「はい。最悪バレたら後で落ち合いましょう」
「了解」


それでは、とユウはその居酒屋を後にする。酒を飲んでいたオビはひらりと手を振るとユウが机に置いた鞄を自身の側に寄せた。







結果を言うと驚く程にスムーズに進んだ。
ユウが主催とすれ違いざまに鍵を取り、それをオビへと渡す。そしてオビが取ってきて出るのを確認してからユウが出ていく。


「……なんか拍子抜けしたや」
「そうですね。事がスムーズに進み過ぎて怪しくもありますが」


夜会から抜け出し、依頼人と約束の場まで行く。そこで品物を渡して任務完了である。じっとユウの事をオビが見つめていた。ユウは居心地の悪さに身じろぎする。


「……あの、オビさん、何か?」
「あんた、何でこんな仕事してるのさ。見た目からしても、こっちに手を出す程とは思えないけど」
「…………別に関係無いですよね?」


そうだけど、とオビは言いにくそうに口をもごもごと動かす。


「……金に困ってる訳じゃないのはこの衣装で分かる。知り合いに話を通す段階で1つの場所に留まってるのも分かるし……。でも鍵を取る技術は本物だった。だから余計に不思議でね。答えなくても良いよ、関係無いのは事実だし」
「…………好きなんです。命のやり取りが」


ぽつり、とこぼす様に呟いた。ユウが喋った事にオビは目を見開いている。それを見てユウは笑う。


「ご察しの通りです。別にこっちに手を出さなくても大丈夫なんです。でも、ぎりぎりの所で自分が生きてるって感じるのが好きなんです。理由なんてそんなもんですよ」


スカートの中に隠してある短剣を服の上から撫でる。裏方の仕事をするとうっとりとまるで夢心地の様な感覚をユウは感じるのだ。


「だから、いつかオビさんとも______」


その後に続く言葉を聞いてオビは苦笑いを浮かべた。


「訂正しよう、お嬢さんはこっち側の人間だ」



*****
大変、大変お待たせしました……。同業者ネタが全然思い浮かばずになんかゆるっとした感じになってしまいました。仕事内容が全く決まらず……。オビが夜会に乗り込むのは結構簡単と言っていたのでそこからひっぱり出してどうにかこうにかとした形になりました。夜会のやり取りとか全く知らないのでばっさりカットの雰囲気だけ楽しんで頂けたら、と。
いつかリベンジしたいです!!
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