空への手紙



◆煉獄さんが本編通り殉職しています。





ボロボロと自分の目から涙があふれているのを感じていた。手に持つ、杏寿郎の死を知らせた紙に涙が落ち、文字が滲む。


「……ばか杏寿郎」


小さく漏らした声はやけに響いた気がしたし、凄く鼻声な気がする。
とても鮮明に想像が出来るのに。
此処で「ユウ!」と自分の名前を呼ぶ彼の声、顔、仕草。全部、想像出来るのに、今の自分の前には彼は居なかった。







"私が泣いていると、周りからは「分からない」と言われる困った顔をして、どうにかしようとしてくれた。
そんな杏寿郎だから、きっと今の私を見て、困った様な顔をして笑っているんでしょ?
もう少し、もう少ししたらちゃんと前を向くから、それまではこの姿で居るのを許して欲しい。
沢山の人を守って凄いね。でも、独りぼっちで寂しくはない? 辛くはない?
最後の杏寿郎の言葉は昨日の様に思い出せるんだよ。戻ったら伝えようと思っていた言葉もちゃんとあったんだよ。
あの時、ちゃんと伝えていたら良かったのに。
どこかで杏寿郎は死なないって思ってたのかもしれない。沢山謝りたいことがある。沢山お礼を言いたいことがある。
でも、もう、会えないんだね。"

ぐしゃり、と書いていた紙を丸める。
紙に書き出すと頭の中が整理されると誰かが言っていた。けれど、ただただ杏寿郎の死が悲しくなるだけですっきりもなんともしない。寧ろこんな事しか出来ない自分が情けなくて、苛立つ。


「……好き」


口にするまいとしていた言葉をぽつりと零す。


「距離感なんて知らないみたいな大きな明るい声も、がっしりと鍛えられた体も、太陽みたいな優しい笑顔も、全部、全部っ……好き、なのにっ」


超えてはいけないと自分で理解していたが、ユウは手を握りしめて口元を噛み、顔を歪めた。


「死んじゃった杏寿郎は大嫌いっ……」


──嗚呼、このまま体の水分が全部溢れて、君に逢いに行けたら良いのに。





*****
届く事の無い手紙を書くのは、相手に対して伝えたくても伝えられなかった言葉がある、少しツンデレちっくな子のイメージが私の中であります。
歌詞の中で似たような言葉があるのですが、彼女が何回も書き直しているバージョン違いの手紙の内容みたいな雰囲気にしたくて、歌詞っぽい言葉だけを手紙の部分に入れてみました。
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