ブラックナイトタウン



◆若干死ネタっぽい





午前0時になると灯りの消えた街が現れ、その街は夜明けと共に消えるらしい。


「善逸君。元々街がある所に新たに街が現れるってどう思います?」
「死ぬ死ぬ死ぬ絶対死ぬ!!大体なんで俺がこんな目に……!?頭を使う事得意じゃねぇよぉー!!剣も得意じゃねぇよぉ!!」


ガタガタと恐怖に震えて善逸はユウへと悲鳴に近い叫びを上げる。ユウへの返答は無く、只々恐怖に震えていた。
あれ?とユウは首を傾げた。
今回、偶々現場に近く居たユウと善逸にこの街を調べる任務が来た訳だが、合流した時彼はとても頼もしかった記憶がある。


「ユウさんと仰るんですね?あぁ、とても美しい響きの名前ですね!いつ死ぬか分からない隊員同士結婚しません??」
「それより先に聞き込みしてみましょうね」
「はぁ〜ん!サラッと流すクールさも素敵だっ!!」


そんな事は無かった。最初から彼はなんか可笑しな変わった人だった。全然頼もしく無かった。
ユウは呆れた様に溜め息を吐く。よく今日まで生きてこれたなと別の尊敬の念を抱きながら善逸を置いてさっさと歩き出す。
時刻はもうすぐ午前0時になる。
その例の街はどうやら午前0時に外に出ている者を消してしまうらしい。でもそれならどうして人が消えるのでは無く、灯りの消えた街という表現がこの街に広がっているのだろうか?
じゃり、と足と地面が擦れる音が2人分、夜の街に響く。


「……ユウさん、ちょっと待って。…………今って、街の人は皆っ、家に居るんだよねっ!?」
「そうですけど。どうかしました?」
「賑やかな音が聞こえるぅ!!まるで、祭りでもしてるみたいなぁ!!」
「嘘っ!どこから聞こえますか!?」
「全方向から同じ距離で、同じ大きさでぇっ、凄いぼやけてて音がしてる以外は"何も分かんない"けど!確かに騒々しい!!嗚呼〜!!不思議現象!!死ぬっ!やっぱり来るんじゃ無かった!女の人が居るから手取り足取り教えて貰おうとか思ったバチが当たったんだぁ〜嫌だ〜死にたくない〜!!」


善逸は、ぼろぼろと大粒の涙を流し、このまま死ぬんだ〜嫌だ〜と叫び街角にしゃがみこむ。
そんな善逸の脇に手を入れて無理やり立たせる。善逸は驚いてただでさえ大きい瞳をまんまるくしてユウを見た。ユウは善逸の肩に手を置いて目線の高さを合わせる。


「怖いのも泣くのも分かります。鬼との戦いで、いつも頼りにしているものが使えないという事は私には到底分からない絶望感でしょう。……きっと、君の耳で何も分からないという事は、私達はまだ謎の中心部に触れられて居ないという事です。私は左利きですから、刀を持たない手同士繋ぎましょう。まだ、頑張れますか?」
「…………ユウさんは天使ですか?」


ぐしゅ、と鼻をすすり目ともの涙を拭くと善逸はユウの右側へと回る。ユウが先導して善逸の手を繋ぎ、彼の顔が真っ直ぐ前を見据えたのを確認してから歩き出した。


「意識は常に全方向に。少しでも何か気になることが有ったら言葉にして下さい。空振りでも構いません。2人で協力して捜索を続けます」
「……はいぃ」


しかし、全く変化は見当たらずただただ時間だけが過ぎていく。一瞬、ふっと気を抜いた瞬間、ユウは見ていた街がぼやけてた様な気がした。


「……?」


ぼやけが収まると、街の風景は変わらず、1人の少年が視線の先に立っていた。その少年は宍色の髪をしていて、ゆっくりと振り返ると狐、のお面を、つけて、いて。


「さ、錆兎、君……?」


ぁ、ぁあ、と悲鳴を上げ始め、頭がズキズキと痛み始めた。居ない筈の彼が此処に居ることが可笑しいのは分かっている。分かっているが、震えが止まらず、あの時の、恐怖が、痛みが、自分の中に蘇る。
錆兎に出会うまでは自分が強いと思っていた。
錆兎の命が消えてしまうなんて思って無かった。


「そのままで良い」


とても嬉しそうに、にっこりと目の前にいる錆兎は笑って言った。
その笑顔は、声は、あの時と変わっていない。


『どんなに辛くても笑ってみせろ』


あの時の錆兎に言われた言葉を思い出す。
じわりと視界が滲み始める。泣いちゃ駄目だ、笑わなくては、でも、ユウの顔は歪む。


「ご、ごめんなさ」
「ユウさん!!」


がつん、と頭を殴られた様な衝撃が身体を駆け巡った。


「ユウさん!目を覚まして!!ユウさんっ!!」
「…………ぜ、善逸君?」
「ユウさん!?気が付いた!?」
「わ、私、何して」
「急に止まったと思ったら、強い恐怖と後悔の音がユウさんからして!声かけても全く反応無くて!!でも本当良かった!!こんな所で可笑しくなったユウさんに残されて、1人にされたらちょびる所だった!」


良かった、と顔をくしゃくしゃにして善逸がホッとした様な顔でユウを見つめる。
先程まで錆兎がいた所を見てももうそこには誰も居ない。あ、と善逸が何かに気付いた様に上を見上げていた。つられてユウも善逸の視線の先を辿る。


「夜明けだ」


建物の隙間から太陽の光が漏れ始めていた。







午前3時頃。
カチャン、と食器同士が当たる音が響いた。
そこには長机があり、テーブルクロスもかけられており上品な場だ。今しがた軽く当てあったワイングラスを口に含み机の上に各々が置く。


「いやぁ、昨日はいいのが掛かった掛かった」
「凄く綺麗な宝石だったなぁ」
「昨日の分が既に終わってしまっていたから残念だった」
「でも今日の楽しみが出来たと思えばいいだろう」
「……勿論、分かっているだろう?」
「今すぐ此処に持ってこい」


ははは、と男達は笑っていた。







「駄目ですね、昨日と同じで全く変化が見当たりません。……そもそも昨日消えたとされる方と全く会いませんでした。善逸君、今日は二手に分かれて散策しましょう」
「いやいやいや無理無理無理!!こんな所1人で歩くとか無理死ぬ!!」
「善逸君は祭りの様な音があっても他の音は聞こえるんでしょう?何かあったらすぐ助けに来てくれますよね?私の方も大きな音を出して頂ければ直ぐに助けに向かいます。今日もまた誰か犠牲者を出す前に止めなければ」
「ユウさぁ〜ん!!そんなっ!殺生なぁ!!」


遂には、お許しを!とユウの前で土下座し始めた善逸にユウは呆れる。昨日何とかやる気を出して貰えたというのに凄く手間のかかる後輩であった。
その事を改めて再認識する。


「善逸君!……貴方は鬼殺隊でしょう?大丈夫です。絶対大丈夫です!私は君の事をとても期待してるんですから」
「……期待…………?」
「えぇ、期待してます。私と違って格好いい男の子なんすから、これでもとても頼りにしてるんですよ」
「…………」


にっこりと笑ったユウの顔をじっと見て、叫び散らすのも涙も止まる。
そして数秒後、むくりと立ち上がって彼の中できっと最高の爽やかな笑顔を浮かべた。


「……分かりました!この善逸、ユウさんの期待に応えてみせます!!大船に乗ったつもりでお任せ下さい!!」
「それでは私は街の左側を担当するので、善逸君は右側をお願いします」


はい!と元気な返事を聞いてからユウは善逸から離れて街を歩き出す。善逸と別れてからすぐ、ヴァイオリンの音が響いた様な気がした。
動く気配がしてユウは刀に手を添えながら振り返る。


「……錆兎君?」


こくり、とあの頃と少しも変わらない錆兎がユウの前で頷いた。


「…………ご、ごめんなさい!あの時、私なんかより、」
「お前は自分の価値を知れ。そんな事を言うな」


足音がしてユウへと錆兎が近付いてくる。


「後遺症で成長は出来なくなってしまったが、こうして生きている」


錆兎の手がユウの手を取った。
──ちゃんと、暖かい。


「……付いてきてくれるか?」


錆兎の手はユウが簡単に振りほどける弱いものだ。けれど、ユウは振りほどかずに錆兎に導かれるまま付いて行った。


「……?」


善逸は何か嫌な感覚がしてその場に立ち止まる。
後ろを振り返っても大きな音はしない。
────2度目の夜明けはもうすぐだった。







善逸は探していた。
夜明け後にユウを探していたが未だに見つかっていない。昼は他の音が多過ぎて分からないし、夜になったらなったでユウの音はあるはずなのに祭りの様な賑やかな音が邪魔をして場所が掴めないでいた。
時刻は0時。


「〜っ、ユウさ、さぁ〜ん!!」


恐怖を押し殺して声を出す。
けれど返事はない。
その時、ヴァイオリンの音が善逸の耳に聞こえる。その直後、ユウの音が大きく聞こえた気がした。


「っ」


善逸は導かれるままに走り出す。
そして、足を止めた。


「……ユウ、さん」


ユウは目は虚ろで静かに椅子に座っており、一応は心臓の動く音はしていた。そのユウの側に愛おしそうに見つめる口元に傷のある少年が立っている。
けれどその少年は人とは違う。何も音がしていなかった。。少年は善逸に気付いてはいるが、それよりもユウの様子を眺める方が大切かの様にしている。


「可哀想になぁ。可哀想になぁ。自分の所為で他人が死ぬなんて可哀想になぁ。忘れられない辛い思い出になるよなぁ」


複数の鬼の音が善逸の耳に入った。


「さてさて。じっくり寝かした。"良い味"になっているだろうなぁ」
「鬼滅隊の隊士はみんな辛い思い出があるからご馳走だなぁ」
「あぁ、安心せい。お前は明日、こうなるからなぁ」
「じっくり見ておけ」


ガチガチと善逸の歯が当たる音が鳴り出す。
自分が昨日、離れてしまったから、ユウさんは死ぬのだ。
善逸の後悔に反応して老人の姿をした鬼達は、善逸を見た。


「……あぁ、お前も随分良い後悔の音が聞こえるなぁ」


ばつん、と善逸の中で何かが切れた。







善逸が目を醒ますとそこは街の中心部であった。
ユウも噴水の前に倒れている。音は小さく、ただ生存をしている音だけで、ユウ独特の音は聞こえない。


「……ユウさん、ねぇ、起きて、ユウさん!」


ユウはぴくりとも動かずにただ呼吸を続けていた。





*****
錆兎は最終選抜にて、夢主を手鬼から逃がして死亡しています。最初の相手予定は義勇だったのですが、夢主と一緒に錆兎追っちゃいそうだったので辞めて、後悔している人がいなさそうな善逸になりました。
長くなりそうだったので後半はとても早足です。入らなかった物や、細かい設定(つもり)は長くなるのでその内メモの方に追加すると思います、多分。
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