「いい加減にしなよ」


低い声が響いたかと思うと、ユウの首に掛かっていた腕が緩む。背後で盗人が小さく悲鳴を上げて意識を失い、倒れた。先程の低い声はどうやらオビのものらしく、盗人が倒れるのを見届けると崩れ落ちそうだったユウの腰に手を差し込んで支えてくれた。


「大丈夫?ユウ嬢」
「オ、オビさん?」
「そうだよ、オビさんだよ」


安心させる様にオビは笑いかける。オビがユウを支えている間にミツヒデが盗人を捕獲して兵士を呼んでいた。木々は置かれていた檻を持ち上げてユウの前に持っていく。


「ユウさん、取り敢えずこの子を見せないと。団に専門の人はいますか?」
「い、います。けど、何処に居るかは……」
「分かった。ミツヒデはそいつの処理を頼む。木々、それは俺が薬室に持っていくからさっきの団長殿に伝えに行って専門医を探してくれ。オビはユウ殿を白雪の所まで俺と行くぞ」


ユウは目の前で的確な指示をするゼンを見てやはり偉い人なんだなぁ、と場違いな考えを持つ。オビがユウを運ぼうと抱えると慌てて降りようとする。


「だ、大丈夫だから!!オビさん!!私歩けるから!!」
「駄目。跡もちょっと残ってるし、俺が運んだ方が早い」
「じゃあせめて馬車の方に1回寄らせて!まだレオが!」


ユウの必死さが伝わったのかオビは器用に横抱きにすると馬車の方へ寄り荷台に軽々の乗り込む。中から聞こえていた唸り声はユウを見かけるとピタリと止んだ。その目からは心配しているのが伝わる。


「レオ、もう大丈夫よ。知らせてくれてありがとう」


ユウがそう告げると鼻を鳴らし大人しく床に着く。オビはその様子に関心した様に口笛を鳴らす。ユウが落ち着いたのを確認すると荷台から出て、ゼンの横に並んだ。


「主、お待たせしました。もう良いですよ」
「よし、じゃあ行くか。ユウ殿、気を付けた方が良い事などは?」
「特に無いです。丁寧に運んで頂ければ」


そうか、とゼンが告げると3人は丁寧に、なるべく急いで薬室へと向かう。ユウはオビに抱えられながらも、心配そうにゼンの抱える檻の中で目を閉じている子狐を見つめていた。
ゼン達が薬室に着くと、白雪、そして小さな少年、白衣を着た女の人が待っていた。話をある程度は聞いているのだろう、白雪達はオビにユウをソファーに座らせる様に指示をしてユウの診察を開始した。ゼンは持っていた檻を近くの机に置き、壁に寄り掛かる。


「私は薬室長のガラク、こっちの小っちゃいのはリュウ、その助手の白雪。これから私達が貴女と子狐の診察をするわ。成るべくリラックスしてね」
「はい、よろしくお願いします」


ガラクは白雪とリュウにユウの診察を任せるとゼンが置いた檻をゆっくりと開けて中に居る子狐を丁寧に持ち上げた。生きている事に取り敢えずの安堵を漏らし、診察台の上に乗せる。


「狐ね……。私は専門外だから基本的な事を調べて待つしかないわね」


真っ白な紙を横に置くと体温などを測り始める。


「ユウさん、大丈夫ですか?他に痛い所とかありますか?」
「白雪、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。えっと……リュウくんもありがとうね」
「リュウで良いよ、ユウさん。腕の方、今は大丈夫でも後から熱を持つと思うから湿布薬を渡しておく。でも明日も来てね。白雪さん、湿布薬準備して貰っても良いかな」
「分かりました!」


白雪がリュウの言う通りに湿布薬を用意している時、薬室の扉が開く。開けた主は息を切らしていて、手に大きな鞄を持っていた。


「ユウちゃん!フィーは!?」


40代位の女性がユウを確認するとまずそう叫んだ。ガラクが体温などが書かれている紙を渡すとそれに目を通して子狐に向き合い鞄の中から道具を出して確認し始める。


「……ユウさん」


白雪から声を掛けられてユウはそちらを向く。白雪は目をきらきらと輝かせてユウの顔を見つめている。


「やっぱりとっても素敵な白い髪をお持ちでしたね!目は眼帯を取ってしまって良かったんですか?」
「あぁ、そっか。フード被ってたから良く見れなかったか。白雪もとっても綺麗な赤い髪だよ。……目は目立つから外では眼帯をつけていただけで、悪い訳じゃないんだよね」
「……虹彩異色症。左右の目の色が違う、極めて珍しい症状。体に害は無いもののその珍しさからマニアの中でコレクターが出来る程……だよね」


リュウが興味津々といった様子でユウの顔を覗き込んでいた。ユウは慣れたもので笑みを漏らすと「調べたい?」と聞く。リュウは驚きながらも自身の探究心を隠せないのだろう。小さな声で「もし良いなら」と零した。リュウの年相応な様子に白雪とオビは驚きながらもリュウがそれ程きになるユウの目を見つめる。
確かに、綺麗でずっと見ていたいと思うだろう。


「あははは、良いよ良いよ。抉り出したりしなければ」
「!!?し、しないよ、そんな事!」


ユウが調べても良いと言うと思ってなかったのだろう、リュウは嬉しそうになりながらもその後に言った非道的な事に大きく首を振って否定した。

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