ゼン達を先導する様にユウは歩き始める。そのユウの横にオビが並ぶ。ゼンが「おい」と呆れた声を出すが、知らんぷりだ。


「ユウ嬢って看板娘だったんだ。……そのパーカー外したら?もう城内なんだし、平気じゃない?何か被ってるとハゲるって言うし」
「おい、オビ。白雪じゃないんだから」
「旦那、この子お嬢さんと仲良しですよ。さっき此処まで案内する前に街を案内したし」
「白雪と知り合いならゼンも話しやすいんじゃない?」
「こら木々。余計なお世話だ!!」


近くで繰り広げられる仲の良い友達の様な会話にユウは驚いてオビを見上げる。それに気付いたオビが「あぁ」と何かを察した様に口を開く。


「うちじゃこれが普通だから。堅苦しい所じゃまた別だけどね」
「へぇ」
「ユウ殿はクラリネスは始めてなのか?」


ゼンのその問いに答えようとしたら前方から大きな唸り声が響いた。


「うわっ。何だ?」


ゼンが不思議そうに首を傾げる。ミツヒデや木々、オビも不思議そうにしている。だがユウ1人だけはわなわなと震えていた。
ユウには聞いた事がある唸り声だったからだ。これはユウが面倒を見てる、クラリネスに入る前に寄り掛かっていた檻の主の声。


「すみません殿下!!急ぎます!!」


ゼンにそう告げると、只事では無い事を感じ取ったのだろう。4人共、ユウに続いて走り出す。動物が唸るだなんて、普通の事だろう。だが、ユウが面倒を見ている子達は唸るだなんて事をしない。そんな子達が唸るだなんて一大事に違いない為ユウは心配だけが募る。
動物達が居る馬車の荷台を閉じている布を持ち上げると其処には檻の中に入っているライオンのレオが唸っており、その前に1人立っていた。


「……なんだ、ビックリした。すみません、そこの人!此処、立ち入り禁止ですよ!」


間違って入ってしまったのだろう、そう思って声を掛けた。後ろのゼン達もユウがそう声を掛けたので大した事では無かったと安堵したのだろう。5人が緊張を解くと、中に入っている人が振り返る。その手には、小さな檻が有った。
それを確認した瞬間、ユウはいた場所から吹っ飛ばされていた。


「え?ユウ嬢!?」


オビが慌ててユウに走り寄り、ミツヒデと木々がゼンを守る様に前に立ちながら剣を出す。ユウがオビに手伝われ、体を起こすと荷台の中から人が出てきた。


「すみません、動物の調子が悪くて。サーカス団の者なのでお気になさらず。そちらのお嬢さんもごめんなさい、檻から出てた動物が衝突しちゃったみたいで。他の人は怪我はない?」


荷台に居た人は手元に小さな檻を持っており、その中にはぐったりとした子狐が倒れていた。まだライオンの唸り声は止まない。
ミツヒデと木々は構えていた剣をしまい、怪我を負ってない事を伝える。オビも大丈夫だと伝え、ユウから手を離すが、ユウは何も言わずに下を向いていたままだ。


「あ、お嬢さん、もしかして怪我しちゃったかな?大丈夫?」


手に持っていた檻を足元に置いて、ユウに近付いてきた途端、ユウはその人物に向かって飛び出す。勿論、飛び出された方は檻とは逆の方に避けるだろう。


「おい、お前誰だ。……うちのサーカス団にはお前みたいな薄っぺらい顔でヘラヘラしてる奴は居ないんだよ、盗人!!」


走った勢いでパサリ、とユウの被っているフードが落ちる。その下からは光に反射して綺麗な白い髪が現れ、肩までと短いものの風になびく。ゼン達はユウの持つ髪を始めてはっきりと見た為、目を奪われる。
盗人。そう言われた方は、今までの人の良さそうな笑顔を崩しいかにも悪巧みを考えている笑顔を浮かべた。


「あーあ。ご本人様が居たかぁ。結構いい考えだと思ったんだけど」
「うちの子に何した?」


ユウが盗人に向かって腕を振るものの、軽く避けられてしまう。先程飛ばされたのも盗人の蹴りだったのだろう。ゼン達なら兎も角、警戒を解いていたユウには避けるのは不可能だった。その痛みがまだ続いているのがイマイチ切れが悪い。


「何だと思う?……教えてあげないよ、そんな馬鹿な事すると思う?」
「普通はそうだよ、ねっ、っと!!」


盗人の右ストレートをしゃがんで避け、地面に手をついて右足を相手の横っ腹目掛けて振る。が、読んでいたのか受け止められてしまう。


「君、気付いてる?左目、眼帯してるからかは知らないけど右側の攻撃が多い」
「うっ、さいっ。……なっ!!」


男と女。やはり力には差が有って、一瞬の隙を突いてユウは捕まってしまう。ゼン達が加勢する前に捕まってしまい、逆に手出しが出来ない状況になってしまった。


「ぐっ……!!」


左手は背後で固定され、首元に腕が掛かる。左目に掛かった眼帯に手を伸ばされて勢い良く千切られた。


「……へぇ?だから眼帯してたんだ。まぁ、そんな目立つ白い髪で虹彩異色症、しかも赤ときた。青と赤なんて珍しいもん持ってんな」


ゼン達にもじろじろと見られ、首元の腕にも力が入る。ユウは苦しくて、悔しくて、生理的な涙が目元に溜まり始めた。

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