「ゼ〜ン〜」


ミツヒデが衛兵服のゼンに向かって何時もより低い声で名を呼んだ。ゼンは付けていた仮面を何処からか取り出し、それを装着する。


「何故私の名を?」
「ごまかすな!」


ミツヒデの後ろに居るキキとユウは我関せず、を貫き先程まで見ていた舞台の話を淡々としている。


「思ったより人の入り多かったです」
「お昼時だったにしては確かに。前回より全体的に入りは多いからかも」
「へぇ。いやー緊張してきたー!」
「緊張しないタイプかと思ってた」
「いやいや、普通にしますって。……多分」
「あれだね、ユウは緊張してるしてる、って言って実際してないタイプだね」
「よく言われます」


ふふふ、と女子2人でほほえましそうに会話をしている。キキにとって先程の事は忘れる事にした様だ。


「ミツヒデさんにキキさん!それにユウさんまで!」
「見てたんだって、劇」


驚いている白雪にオビは補足する様に告げる。リュウはもうその場に居らず、患者達の補助をしているらしい。


「うわ〜恥ずかしい!!……っ!!ユウさんの服、似合ってますね!!」


自分の頬を両手で挟む様にして照れていた白雪だったが、ユウの様子を確認すると近寄り頬を染めて興奮した様子になる。慣れた様子でユウは礼を言う。此処に来るまでに散々言われたのだろう。


「もうなんかサーカス団って感じの衣装では無いけどね。……白雪もお姫様の格好似合ってたよ?ヴェール外してれば良かったのに」
「……あ、えっと」


途端に言いにくそうに口をモゴモゴさせ始めた白雪を見てユウは触れちゃまずい話題だったかとさっさと自分の意見を覆す。


「まぁ、あんな公の場で見世物の様に見せるのも危ないし。……私は慣れてるし、ある程度なら自分でどうにか出来るけど白雪はオビ達に守って貰わないと駄目だもんねぇ」
「そうですね……。もっと強くならないと!」
「まぁ女の子だもん。其処まで誰も求めてないって!守られとけ!特権だ特権!」


ぱしぱしと白雪の背中を軽く叩いていたユウだったが、視線を感じてそちらを向くとオビと目が合った。


「……オビさん。そんな目で見られても女の花園には入れませんよ〜だっ!駄目駄目!女の子になってから出直してきな!!」
「なっ!別にそういう訳じゃ」
「嘘は駄目だぞ〜。その目が『僕ちんも仲間に入れて欲しいなぁ〜きゃぴっ!』って言っ、」
「言ってないけど!?」


あはは、とユウは大きく笑う。
その様子にオビはほっとしたのか直ぐに軽口を叩く。周りもここ数日話して無い2人を気にしていたが単に都合が悪かっただけだったかと胸を撫で下ろしていた。だが実際2人の間には何とも言えない距離が合ったのを当事者達は感じているのだろう。


「そうだ、白雪。リュウやガラクさんには話してあるんだけど、ピトをリュウに預ける事になったからよろしくね」
「あ!そうでした!……理由を聞いても?」
「そんな大層な理由無いよ?此処の薬室がどうやら気に入ったみたいだったから。まぁ戻って来たくなったら連絡くれれば迎えに来るし」


その場でクルリと一回転するとユウは満面の笑みで笑う。


「そうだ!勿論皆さん私達の舞台、見に来て下さいね!!」


素敵な驚きをプレゼントします、と見に来る事を全く疑っていない様子であった。それは少しばかり狂気にも似た何かで在ると何人かは気付けたのだろうか。

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