目からぽろり、と何かが零れ落ちるのを他人事の様にユウは感じていた。
1度流れ始めるとそれは止まる事を知らない様にぼろぼろと溢れていく。
もうユウにはオビに対して話す事は何も無い。静かに顔を俯けると踵を返して来た道を戻る。
オビは顔を最後まで上げなかった。だから、きっとユウが泣いている事なんて分からないだろう。それで良い。
「…………ピト、大丈夫だから」
持っていたバックからひょっこりとピトが顔を覗かせた。きちんと先程までの空気を読んで出てきたのだろう。
「もう少しで全部終わるから。……もうちょっとだけ待っててね」
ピィ、と悲しそうに小さくひと鳴きするピトの頭を軽く撫でる。その顔はもう晴れ晴れとしており、真っ直ぐ前を向いていた。
▽
あれから数日。ユウとオビは一言も話さないまま王城開放日、当日になった。
「ほぉ〜!向こう側凄い賑やかだー!!」
ユウは対して気にしてないのか、木の上に登り、人が城の中に入っていく様子を嬉々とした様子で眺めていた。横にはピトが嬉しそうにユウの周りを飛んでいる。
「おーい、ユウ。そろそろ客寄せの準備しろ〜」
「はいはーい。聞こえてますよー団長殿ー!!」
軽々と体の重心を前にずらし、器用に木から降りる。その様子を他の者が見ていたら拍手を送る程のものだったが、生憎皆忙しくて気にも留めていなかった。
「じゃあピト、こっからは別行動だよ。……もう大丈夫ね?」
ピィピィ、とピトは鳴くと名残惜しそうにユウの頭上を一周まわってから何処かへ飛んで行ってしまった。
「さて、着替えますか」
大きく伸びをしてから馬車がある方へと足を進め始める。
「しっかし、本当に賑やかだな。食べ物も結構美味しかったし、次の所に移動する時、名残惜しいだろうなぁ」
ピタリ、と足を止めてユウは人混みのある方へ振り返る。そちらからは「殿下ー!」と皆が叫んでいるのが聞こえてきた。ユウは何も言わずに向きを直し、歩く。
「…………まぁ、私には関係ないか。帰る場所なんて無いんだから」
その言葉には少しばかり棘もある様に感じる。顔を上げると、団長が直ぐに来ないユウに痺れを切らしたのか迎えに来ていた。
「ほら!着替えて着替えて!!」
「あ〜はい〜聞こえてます〜」
その手にはオビに選んで貰った服では無く、真っ黒ベースの服が入った紙袋があった。それを当然と言わんばかりにユウは受け取ると着替える為に馬車の中へと消えて行った。
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