むすり、と機嫌が悪そうな顔でオビは城の中をあっちへ行ったりこっちへ行ったりとフラフラしていた。その理由はここ2、3日ユウに全く会えていなかったからだった。
最後に合った出来事が買い物だっただけに何かしてしまったのなら謝ろうと思って城内を歩き回っているものの、一向に会える気配を感じない。


「……くっそ〜とことん逃げられてる」


はぁ、と大きな溜め息を吐きながらオビはとうとう諦めの境地に達しようとしていた。どうやら薬室に何回か顔を出していてリュウにも色々と頼み込んでいる様だが、オビが薬室で待っているとその日は来ないなんて事もあった。


「なんだかなぁ……。俺の動きでも分かるのかいな……?」
「そりゃそうだよ。ユウには動物達がついてるからねぇ」


後ろから声がかかり、オビは慌てて其方を向く。そこには例の専門医が呆れた様な顔をしてオビを見つめていた。


「えーっと、オビくんだっけ?……何でユウを見つけたいのさ」
「俺が何かやっちゃって怒ってるなら謝らないと」


ふん、と専門医は鼻を鳴らす。その様子がどうにもオビを馬鹿にしてる様であったがオビは気にせずそれで?と言葉を待つ。


「……別にユウはあんたの事怒ってる訳で逃げてるんじゃないよ。嫌いになった訳でも無い」
「じゃあ、何でまた」
「あの子は優しいからねぇ。これが終わったら私達はまた次の場所へと移る。うちの信条でね、1度訪れた所には来ないんだよ。……だからもう2度と会わないから別れが寂しくならない様に、ってね」


それなら寧ろ良い思い出として最後まで楽しく過ごした方が良いんでは無いかとオビは思う。そんな事になるなら仲良くなんてならなければ良かったのに。ただの他人として数日過ごせば良かったのに、と不思議になりそれを目の前の人物へ素直に問い掛ける。
それを聞いてやはりと言うべきか、専門医は呆れ切った表情からもう一度大きく溜め息を吐いた。


「舐めんじゃないよ、ユウはうちの看板娘だ。気持ち良く別れられる様に、最後まで仲良くする事なんて朝飯前に決まってるだろうに」
「なら、何で俺は避けられてる訳?」


専門医はオビに対して無駄な事を言ってしまった、と一瞬顔を顰めるものの舌打ちを漏らして教えてくれた。
何分、可愛い娘の様なユウが辛そうなのが耐えられなかったのだろう。しかしオビがこれ以上ユウを傷付けるなら容赦はしなさそうでも有るが。


「ユウから聞いてるだろう、動物達の世話をしてるってさ。だから人の様子にも敏感だ」


オビは頷いて続きを待つ。


「……言っただろう?あの子は優しいからって。あんたが何かに気付いた事を気付く事位出来るんだよ。オビくんの迷惑になりなくないから、会わないんだとさ」


専門医はもう話す事は無いと言わんばかりにオビから目線を外しさっさとその場から退散してしまった。
オビは廊下を区切っている壁に寄り掛かると静かに腰を下ろした。幸いその場は余り人気のない場所であり、誰も寄って来ないだろう。


「…………それじゃあ、ユウ嬢は、俺が気付いた事を知ってたのか」


それならユウがオビの前に姿を現さない事も納得だ。
ユウは少なからずオビの性格を理解していたし、そんなユウだからオビも安心して会話をする事が出来ていた。面倒くさがりのオビを知っているユウはオビがその事に気付いたら面倒くさがるとでも思っていたのだろう。


「…………確かに面倒くさいとは思うけど、ユウ嬢なら言わなければ気付いてないフリをして話しても良いのに」


数日。たった数日、過ごしただけでオビはユウを気に入ってしまった。オビがゼン達と会う前なら此処まで簡単に気に入る事もなかっただろう。


「…………俺だけ除け者でリュウ坊ズルいなぁ」


他人が仲良くしているのを知っているのに自分だけは会えない。そんな事に腹を立てているのだろう、とオビは冷静に自分で分析する。

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