「……ユウ嬢」


ユウを呼ぶ声が聞こえユウはゆっくりと目を開けた。ん、と気の抜けた声がユウの口から漏れる。
どうやらユウはあのまま寝てしまっていた様だ。オビがユウの肩から手を離す。まだぼーっとしているユウを気にせず幾つかの服をユウへ押し付ける。


「はい、起きたばっかで悪いけど試着してみてくれる?」


流れる様にユウはオビに試着室へ入れられてしまった。
呆れた様にユウはオビから渡された服を見る。それは自分では決して選ばないであろう、派手な服がいくつか。まぁオビが選んだなら文句は言えまいとユウは静かに着始めた。







_____目を、見る事が出来なかった。


大きな溜め息を吐きながらオビはずるずるとしゃがみこむ。顔を隠す様に抱え込み、「あー」だの「うー」だのモゴモゴと口を動かすばかり。
そもそもユウのサイズを知りもしないのに服を選ぶ事が出来るはずも無く、実は先程、オビはさっさと引き返して居たのだった。そして聞いた、ユウの独り言。聡いオビにはそれが何を示しているのか分かってしまった。


『…………白雪の事が好きな癖に、他の女の服を選ぶなんて馬鹿みたい』
『……馬鹿。自分の馬鹿』
『全部、消えて無くなれば良いのに』
『だから、今だけ。今だけ、この幸せな気持ちを噛み締めさせて』



「…………ユウ嬢、俺の事好きなのか……」


確認する様にぽつり、と呟くとオビは居た堪れなくなり頭をガシガシと力任せに掻く。飄々としたオビには珍しくどう反応して良いのか迷っている様だった。
オビの顔は整っている為、ゼンの下に付くまでオビは告白される事があった。しかしどれもオビの外見を見て好きになった人ばかりでオビは態度を崩さず躱していた。


「………………なんでだろうねぇ」


自分でも不思議な様子でオビは椅子に腰掛ける。
先程の様子はユウの性格を知っている方としては驚きしか出てこなかった。自分を守る様に膝を抱えて強く抱きしめ、決してバレない様に控えめでいじらしいユウの様子。
ユウが目を閉じるのを確認すると固まっていたのが溶けた様に動き出せる様になった。何も出来なくてオビは服の中にまた戻ったのだった。


「……どんな目で俺を見るのかが怖かった」


だからオビは服をユウに渡すとさっさと試着室に入れ込んだのだ。


「オビさん」
「!?な、何かな、ユウ嬢」
「いや、1個目着終わったからなんだけど。……ピッタリなの何で?サイズ、教えたっけ?」
「あれ、本当?適当に選んだんだけど、それなら良かった」


キィ、と小さくドアが開いたかと思うとオビが渡した中の1つをユウが身に付けて心配そうにオビを見ていた。眼帯は外されていた。


「……ど、どう?派手過ぎな気もするけど気のせい?」


ひらり、とスカートを軽く持ち上げながらユウはオビを見つめる。その目はユウの感情を映しておらず、ただ純粋に聞いている様でオビは安堵の息を吐いた。


「別に、発表の場ならそん位は平気だよ。ほら、他のも着て」
「う、分かった」


任されて自分でもやると言ってしまったのだ。オビは諦めてやり遂げる事にした。

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