オビは両手に大きな紙袋や箱を持ちながら前を歩くユウを呆れた様な目で見ていた。


「あ、オビさん。今度はあそこのお店!!」
「はいはい」


昨日会った時とは全く違う、迷う事なく足を進めるユウを見て言ってた通り1度通った道は忘れない事は本当らしい。此処まで来る途中に確認したら自信満々に言われたものの心配だったが、どうやら杞憂だった様だ。


「ユウ嬢、流石に多すぎる量は止めてね。何かあった時困るから」
「え〜?平気、平気〜。こんな所であるわけ無いじゃんか〜」


今歩いているのは城下街。人の量も多いし確かに無さそうではある。
お気楽そうな様子で足取り軽く歩くユウがやはり子供の様でオビの顔には小さく笑みが漏れる。オビで無くてもユウの様に安心されて楽しそうな笑顔を向けられるのは悪い気はしないだろう。
ユウに続く様に、ある服屋に入る。


「ねぇ、オビさん。服選んで、って言ったら怒る?」


其処には、着ていたら目立つであろう服が並んでいた。ユウが今着ているのは昨日と既視感を感じるフードにズボン。見た目からは想像つかない服の種類であり、好きなのだろうかとオビは首を傾げる。


「……え、ユウ嬢の私服として?」
「あ、違う違う。こんなの私服に出来ないし着たく無いよ!!サーカス団の発表の時に目立つ服を着なきゃ行けないんだけど、私さ、服とか興味無くて」


別にこの格好でも見た目が目立つから着飾らなくても良いって言ったら怒られた、と眉を下げながら笑うユウにオビはほう、と頷いた。


「成る程。つまりユウ嬢に合う、服を選べばいい訳?」
「うん。お願いしてもいい?無理そうなら後でいつも通り団長に頼むから全然良いんだけど、また出るの面倒くさいから」
「あ、面倒くさいからなんだ。良いよ別に。服を選んでなんて言われたらご期待に添えなきゃ男じゃないからね!」


オビは持っていた袋や箱を近くにあった椅子の傍に置くと1人でさっさと服の方へ紛れて行った。ユウはオビがすんなりと了承した事に驚き、少しの間その場に立ち惚けていた。はっ、と意識を戻すと荷物が置いてかれた傍にある椅子に座る。


「…………白雪の事が好きな癖に、他の女の服を選ぶなんて馬鹿みたい」


ふん、とユウは鼻を鳴らして膝を抱えて蹲る。
そうだ、オビが白雪を好きなのはユウが街を案内されている時に薄々感じていた。これでも色々な動物の世話をしているからオビが白雪に向ける優しい瞳は親愛なんて優しいものでは無く、劣情を含んだものであると。
ユウはサーカス団に入ってから歳の近い人と親しくなる事は全くと言って無かった。だから今回白雪達と親しくなれて本当に嬉しかったのである。だが、其処に友情ではなく恋愛感情を見つけてしまった。


「……馬鹿。自分の馬鹿」


ぎゅっ、と膝を抱える腕を強める。
叶わない恋をしてしまった。
叶わない夢を見つけてしまった。
決して叶わない彼の恋を知ってしまった。


「全部、消えて無くなれば良いのに」


この痛い思いをする位なら、最初から前を向いて歩くんだったと、今更後悔しても遅い。大丈夫、とユウは自分に言い聞かせる。きっと気付かれない。隠して最後は笑って終わろう、と。


「だから、今だけ。今だけ、この幸せな気持ちを噛み締めさせて」


ユウはゆっくりと目を閉じた。


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