「え!!??脱走??それってまずいじゃんか!!何でこんな所で油売ってるの!!!」


驚いて凄い早さで前後ろとユウの頭が揺れる。放っといたら時期に酔うだろう。


「オビさん〜止めて〜酔うから止めて〜。それに大丈夫だから〜」


大丈夫、と聞くと驚く程ピタッとオビは動きを止めた。白雪が気を利かせて椅子を用意してくれる。


「大丈夫なの?」
「うん。呼べば戻ってくるから」
「キハル嬢みたいだねぇ」
「おー」


キハルという人物が誰だか分からなかったが、話を止める気にもならなかったので何となく同意していた。そしてユウはやっと薬室に来た1番の理由を成し遂げられそうになる。


「そうだ、眼帯ない?怪我人のやつで良いんだけど。昨日切られちゃってさぁ〜」
「あぁ、ありますよ。ちょっと待って下さい」


白雪が1度部屋の隅に行ったかと思うと、手に白い眼帯を用意してくれた。ユウは礼を言いながら受け取り、早速左目の方につける。


「ユウさん隠しちゃうの?」
「まぁね。また街に出ようかなぁ、って」
「待った、ユウ嬢。昨日の方向音痴っぷりで1人で行こうとしてる?」


昨日、オビと白雪に案内して貰った時、ユウが思うままに進もうとすると変な所に向かって歩き出し、慌てて白雪達が止めたのがオビには引っ掛かったのだろう。ユウは何て事無いように大丈夫と自信満々に言ってのけた。


「いーや、絶対駄目。昨日の今日でまた迷子になるに決まってるし、昨日みたいな事がまたあったら困るって主も言ってた」
「記憶力だけは良いんだってー。昨日は油断してたからだし、大丈夫、大丈夫」
「せめて、明日!!主達が昨日の人に話を聞き出してるし」
「えーーー。買い出し行かないと間に合わないんだって。もーー母親みたいに心配性だねぇ。……そんなに言うならオビさんが付いて来れば?私は何と言われようと!行きます!」


断固譲らない、と固い意志をユウはオビに告げる。もし例の殿下にも駄目と言われても動物達のご飯を調達しなければならないから最悪隠れてでも行く意志である。
そんな私の意志を読み取ったのかオビは頭を抱えて小さく唸る。どこでも中間管理職は辛いものだ。


「うぅ〜ん。良案なんだけど、お嬢さん1人にするのもなぁ」
「オビ、私なら大丈夫。今日は薬室に篭りっきりだから。ですよね、リュウ」
「うん。今日は昨日取った奴をやらないと。量が多いから」
「なんなら私からゼンに伝えようか?」
「いや、うーん。じゃあ一応聞いてくる。ユウ嬢、此処に居てね!?」
「あーはい、はい」


ユウの返事を聞くとオビは窓から出て行ってしまった。その様子を眺めていたユウは身軽だなぁ、と自分も団長達から思われている感想を抱いた。


「うーん、じゃあそろそろ呼ぶかなぁ。窓開けたままでいい?」


首元から笛を取り出しながら白雪とリュウに確認すると2人とも頷いてユウの手元にある笛を凝視していた。そんな様子にユウは思わず失笑してしまう。
確かにこれから芸をやりますよ、と宣言している様なものだし仕方ない。若干の気恥ずかしさを感じながらもユウは笛に口をつけて息を吹きかける。

するとピィ、と澄んだ音が響いた。
白雪はキハルの時とはまた違う心地良い音色に驚く。確かに鳥の種類が違うから当然といえば当然だが、珍しそうにユウの様子を伺っていた。
ユウは1度吹くと笛から口を離し、ぽけっとしていたが直ぐに慌てて窓から外に出ようとする。そんな所を見たら白雪達は止めようとするし、他の人でも止められるだろう。


「ちょっ、白雪、大丈夫だから!!離して!笛を間違えてたからこのままじゃ鳥の大群が来る!!!広い所出ないと!!」
「え?」


白雪が聞き返すと同時に緩んだ手からユウは抜け出し窓の外に出る。薬室は1階にある為怪我などしていない様子だ。慌てており、大事な事を忘れていた。白雪は安堵の溜息を吐くとリュウと一緒に窓の近くに寄る。
ユウはもう窓の位置から結構離れており、白雪とリュウは不思議そうに首を傾げる。その疑問が解消されたのは直ぐだった。

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