蛍に手招きされ、さくら達は同じ席へ座る。
蛍の隣に座る少年は飲み物をゆっくりと飲みながら何処か緊張した様子だ。


「初めましてさくらちゃん!桃簾からは連絡が来てたから俺は知ってたんだ。俺は蛍。桃簾の部下で諜報担当さ。よろしく〜」

「よ、よろしくお願いします!」


本当に諜報をする人だろうか?と、さくらが思うぐらい彼の見た目は派手だった。鮮やかな金髪然り、その髪にはくせっ毛をまとめるために色とりどりのヘアピンがついていた。

とても派手。それがさくらの第一印象。だが桃簾のメンバーの中で、一番親しみやすそうだなとも思う。
そんな中、やはりジャックが話を切り出した。


「ホタル、何故こうなったか事情を説明しろ」

「はいはい解ってるよ〜。まずこの子ね!はい自己紹介して!」


突然蛍から振られた黒髪の少年はえ、え、と驚きながらさくら達を見渡す。何故か自分と似ているとついさくらは親近感が湧いてしまう。


「ぼ、僕はクロヴィス・ロマンと言います。あるマフィアに僕は誘拐されたんですが、父が桃簾さんと知り合いらしく、助けてくれとお願いしたそうです。それで蛍さんが助けてくれて。えっと、それぐらいしか僕には上手く説明出来なくて」

「マフィアが車で移動してた最中にクロヴィス君を助けて街に入る直前にバレてね、追われちゃった。不覚だったよー」


詫び入れた様子もなく蛍はあははと笑いながら言う。話の中心であるクロヴィスはそんな隣の彼を見て苦笑いをした。


「クロヴィスくんのお家はマフィアに狙われる様なところなの?」


ようやくさくらが話に入り、疑問に思ったことを口にする。クロヴィスは首を横に振った。


「確かにロマン家は格式高い名門貴族の中にあるのですが、その中でも最下位。落ちぶれ貴族と言われています。近くの村を数個纏めている程度で…。それでも平和でした。家も僕と父、そしてお手伝いさんしかいません」


「落ちぶれた貴族の子息を誘拐か…。確かに誘拐しやすそうだ。そのぐらいマフィアも切迫詰まってたのかもな」


あっさりと結論を述べたジャックにクロヴィスは項垂れる。さくらが少年を心配している中、「とにかく」と蛍が再び話始めた。


「ジャック達が来るまでに桃簾に連絡を取った。ロマン家を狙った弱小マフィアは助けると約束したのウチが片付ける。それまで俺等はクロヴィスを護衛することになった」

「おい、その俺等とは俺も含まれているのか?」

「もちろん。ジャックは強いもん。さくらちゃんもこういう状況に慣れた方がいいしね!」

「そ、そんな」


サーっとさくらの顔が青ざめる。行動が読めない蛍とやり過ぎるジャックに挟まれながらなんて何が起こるかわからない。


「あ、あとジャックの他に、もう一人強力な助っ人を呼んどいた」



「ほーたーるー!!何処だー!!」


扉を蹴破る勢いで開け、怒鳴りながら入ってくる。そんな光景は慣れているのか、他の客は一瞥しただけだった。
聞いたことがある中世的な声に短い銀髪、男物の服を着こなす彼女に、さくらは不安だった気持ちをどこかへ飛ばした。


「琥珀さん!」

「よー!さくらっ!昨夜ぶりだな!」


「ただいまねーちゃん」

「移動中に気付かれやがってクソ弟が」


「……お姉さん?」


へらりと笑う蛍を睨む琥珀。
その二人を見て、さくらにもう何回目かわからない衝撃が襲った。





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