街中はさくらが思っていた以上にたくさんの店やユニークな店が立ち並んでおり、あっという間に昼時になった。


「仲良しになったのぉ」


ジャックに連れられた外で飲食ができる様に長椅子が並んでいる軽食店。その長椅子に二人並んで座りながらサンドイッチを食べているといつの間にか正面に山天狗が佇んでおり、さくらは思わず持っていたサンドイッチを落としそうになるき。


「その神主みたいな格好で街まで来たのか」

「だって儂、こんな感じの服しか持っとらんし。この街はどうかね?嬢ちゃん」

「た、確かに物騒ですけど!楽しいです!」


彼女の答えに仮面越しに山天狗はとても驚いていた。まさかこれ程まで行動力と許容範囲が広いとは思っていなかったからだ。


「それは上々。何、やばいことが起きたらジャックを盾にすればええぞ」

「山天狗、その服装暑苦しい。さっさと森へ帰れ」

「儂だって可愛らしい少年がいないむさ苦しい街なんぞ来たくないわい。用事があるのじゃ。じゃの」


閉じてあった大きな烏の翼を広げ、勢い良く空へ羽ばたく山天狗を、珍しいのかさくらは視界から消えるまでずっと見ていた。


「…すごいなぁ。そういえば、山天狗さんがここにいても皆気にしてなかったね」

「ここの奴等は人外にも慣れている。今は見かけないが、夜になると半魚人やら一ッ目やら沢山出てくるぞ」

「へぇー!」


この散歩の中で、どれほど治安が悪いと言われても、回避できるレベルで商売を行う人も見た目は怖いが話は通じる。少しこの街が好きになってきた。ーーーと、さくらがそう思っていた矢先だ。

突然ジャックがさくらの服の襟を掴み自分の後ろへ引っ張る。ぐぇっと、変な声がさくらから漏れたがジャックは気にしない。

さくらが何とか目線を前にやると、そこにはクラクションを鳴らしながらこちらへ爆走してくる大型トラックだ。


「ひっ…」

「だらしないぞ、サクラ」


涙ぐむさくらとは違い、ジャックは相変わらずニヤニヤ口元を緩めている。
あと5秒もみたない時間で自分達に正面衝突すると察し、さくらはしゃがんで手で頭を隠した。

しかしその瞬間、周りの温度が急激に下がる。耳からはパキパキと何かが凍る音、そして昨日感じたあの寒さだ。


「周りを見ないで飯屋を潰そうとするとは礼儀がなってない」


さくらが恐る恐る前を見ると、トラックとその周辺が凍りついている。誰が見てもジャックの力だと解っていた。
周りの人間がジャックを褒め称える拍手や、逆にブーイングまで聞こえている。


「あ〜やっぱりこの氷はジャックか!助かった助かった!」


トラックと並んで走っていたバイクが止まり、歓声とブーイングの中からヘルメット越しに話しかけてくる声。声の主の後ろには子供が座っていた。


「お前の仕業か、ホタル」

「はいはーい。蛍さんだよ!夕方に会う予定だったのに昼になったね!あ、でも俺のせいではないな。俺は、俺と子供は被害者。追われてたんだもん…っと」


ヘルメットをとって鮮やかな金髪を見せ、蛍と呼ばれた童顔気味な青年は明るい笑顔を見せる。後ろの子供は蛍の腰に腕を回し、しがみついたまま動かない。


「しかし長話してる場合じゃないんだよね!後ろ見てみ?」


指が刺された方向に二人同時に見ると、さくらは更に口をあんぐりさせ、ジャックは歓喜する。

そこには確実にあのトラックの仲間であろう車数台が向かってきている。そんな光景をあははと笑いながら蛍はヘルメットをさりげなく被り、バイクのエンジンを掛けた。


「じゃあジャック、あとはよろしく!」

「は?」

「待ち合わせ場所はいつもの酒場!撒いてから夕方に来てね!晩飯と酒奢るから〜」

「…なら仕方ないな」


ありがとう、と礼の割には感謝の気持ちがこもっていない言葉を残して颯爽と蛍は去る。
それを堂々と見送ってからジャックは敵らしき車の群れと対峙した。


「サクラ、俺の後ろから動いたら死ぬからな」

「動かないよ!!動くわけないよ!!」




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