翌朝、まださくらが眠りについている中、部屋に二人の影が入ってきた。
「おっはよー!!」
「さくら起きてー!!」
「きゃあ!!」
ベッドに飛び込む二人の少年もとい双子の碧玉と黒玉。彼らの体がさくらの腹へ直撃すると飛び起きた。
「お、おはよう…碧玉くん、黒玉くん…」
「名前覚えてくれたね!」
「嬉しいなぁ!」
「着替えたら、桃簾の部屋に来て!」
「お話することあるって!」
「わ、わかったよ」
くすくすくすと笑う二人。姿も声も瓜二つな双子に挟まれ混乱しそうになるも、眠気が一気に吹き飛んだ。
・・・・・・・・
「おはようございます!」
この世界に来て二日目。部屋の雰囲気に慣れたさくらは元気良く扉をあけた。
昨日と同じ場所で屋内でもサングラスをかけながら何かの資料を読んでいた桃簾の手が止まる
「あぁ。早速だがさくら、地下の医務室にいる燐灰に会いに行って来い。蛍は夕方帰ってくる予定でまだなんだよ」
「そうなんですか…」
「それから、トリップする前に俺らはお前に出来る限り護身術やら諸々教えようと思ってな。まぁ詳しくは明日話すとするか。今日はジャックに街の案内してもえ。ついでに仲良くなれ」
「えっ、あの、色々訳が分らないんですけど…」
「以上!ほれ、忙しいから下がれ」
「は、はい…」
・・・・・・・・・
桃簾の部屋から出て一階のホールを歩いているとジャックが待っていた。軽く挨拶をしてからホテルの地下一階へ向かう。そこは全てが医務室であり燐灰という男が管理している。他とは違う薬品の匂いと真っ白な雰囲気にさくらはむず痒くなった。
「リンカイは凄腕の医術師だ。性格は…桃簾と同じぐらい、それ以上に短気だな。言動には気をつけろ」
「き、気をつけるね…!」
暫く長い廊下を歩き、その突き当たりに『院長室』と札が立てられてる扉があった。ジャックは1つ間を置いてから扉を開ける。
「リンカイ、入るーーー!!」
「うひゃあ!」
さくらが頭を伏せながら叫び、ジャックはよける為に首を傾ける。扉が開いた瞬間、何か鋭いものが二人の間を貫いた。それは床に刺さり、暫くしてから重力で刃が抜ける。
「医療用のメスを飛ばすな。随分な挨拶だな、リンカイ」
「入る時はノックしやがれ」
「逆の立場ならしないくせに」
「俺良いんだ俺は」
さくらが唖然とする中、刃より鋭い声が二人を振り向かせる。ジャックは相変わらず何が面白いのかずっとニヤニヤと口元を緩ませていた。
「サクラ、こいつがリンカイだ」
「やっぱり?」
「おいジャック!そのガキ、どっからどう見てもただのガキじゃねぇか!さっさと返してこい!」
椅子をこちらへ向けて睨む短髪に三白眼の男、燐灰はさくらを一瞥してから怒鳴る。更にさくらは恐怖でジャックの服の裾を掴んだ。
「トウレンから聴いただろう?俺の主になるかも知れんガキだ」
「……嘘つくなよ…」
「ほ、本当らしいんです…」
か細くさくらが呟くと、燐灰はさくらを見つめる。そしてため息をついて、手元に持っていたレントゲンを机の上に置いた。
「燐灰だ。桃簾の専属医師兼、腐れきってるこの街の中で一番の医術師だ。多分、異世界の医術とは違うだろうな。桃簾からはそれをさくらに教える様頼まれてる」
「私にですか?でも、」
「確かにお前は異世界の住人。だが、契約の時にジャックの血を体内に入れたらしいじゃねぇか。契約の効力もあるが、それはもう身体が半分、この世界の住人になったも同じ。お前もそれを使えるって事だ」
「トリップ先で怪我した時に応急処置ぐらいは出来ないと。と、トウレンが言ってた。サクラにはつくづく甘い」
ちなみに俺は面倒だから使い方を知らない、と付け足すジャック。
突然、燐灰は立ち上がり白衣を靡かせながらさくらの正面に立つ。見られている本人はおどおどと、小動物かの様に燐灰を見つめ返していた。
「……久々に一般人を見た気がする」
「え?」
「何でもねぇ。おら、さっさと出てけ、これから急患が来るからよ。治療の邪魔したらぶっ殺すぞ」
三白眼を細ませ睨みつける燐灰。桃簾とはまた違う威圧感を漂わせている彼の言葉に早々と二人は医務室から出た。