「とっても気持ちいいお湯でした!」
「だろー?」
バスタオルを肩に下げ、満足した様に廊下を歩くさくらと琥珀。すっかり打ち解け、この姉御肌な女性の隣をおずおずと歩く事はなくなった。
「これからどうすんだ?」
「えっと…「サクラ」…あ、ジャック!」
「よう」
探していたジャックを見上げると、彼は一瞬だけ神妙な趣でさくらを見ていた。不思議に思いながらも気にしない素振りを見せ、さくらは隣に立つ。
「これからさくらはどうすんだって話を丁度してたとこだぜ」
「トウレンはトリップするまでの残り日数でサクラに護身術やらその他諸々を出来るだけ教え込むらしいぞ」
「そりゃあ俺も参加しねぇとな!」
「えぇ!?そ、そんな、皆忙しいのに…」
「ジャック、予定はどうなってる」
さくらの拒否を無視して桃簾と話し合った結果を伝えるジャックと、質問と了解をする琥珀。一通り話終える頃にはさくらも拒否の言葉を言うのが疲れて黙ってしまった。
「解った。とりあえず俺は部屋戻る。じゃあさくら!また明日!」
「は、はい!!」
揃えられた銀色の髪を揺らして琥珀は廊下を颯爽と駆けて去る。あっという間に視界から消え、見送ってからジャックは再びさくらに目を向けた。
「今日はもう遅い。とりあえずトウレンに言われた部屋に案内してやる。部屋の中に簡単だが食事も用意したらしい。食ったら寝ろ」
「う、うん。…ねぇジャック、本当にお世話になって良いのかな?」
「無論だ。奴等も楽しんでいるしな。素直に甘えとけ」
彼等と長い付き合いらしいジャックが言うのなら間違いないのだろう。不思議とジャックの言葉はすんなりと聞き入れることが出来た。
「…サクラは一人でトリップする気か?」
「えっ!?えっとね、まだ良くわからない…ごめんなさい…」
「そうか。ゆっくり考えろ。死ぬまで関わる事だからな」
「だね…」
項垂れるさくらを気にするな、と言うようにジャックの大きい手が頭を軽く叩く。
雑談をしていたら部屋に辿りついた。今後はこの部屋を使うと良いらしい。
「ジャック、おやすみなさい。ご、ご飯食べるけど」
「あぁ。…そうだ、今日から夢渡りしなくて済む」
「ほ、本当だね!」
「明日はリンカイとホタルに会えるだろうな。おやすみ」
ぱたりと扉を閉めてジャックの足音が遠ざかる。音が消えてからさくらはテーブルに置かれていたパンとスープを食べ、そそくさとベッドの中に入った。