心乃原はゆったりとソファーに座る。
桃簾の言った通りだ。普通の女に見えて異質な、全てを見透かす様な雰囲気を漂わせている。ジャックは彼女の向かいのソファーに座りながら見つめていた。


「そう見つめないでよ。力を持ち過ぎた妖精さん」

「すまないな」

「心乃原さんよ。早く話してくれ」


桃簾が急かす。しかし心乃原はふむ、と落ち着きながら口を開いた。


「私とさくらちゃんがいる世界は神々が維持している世界。全てにおいて、限りなく安定している。だけど最近少し不安定なの」

「何故?」

「細かいことは言えないけど、神の上に立つ神、神王の力が弱まってきてね…。神王は神を纏めるだけではなく、世界を維持してる。そして、人の生命を見守っていて、産まれる命、場所を管理しているの。…これで少しは察したかしら?」

「やはりサクラはその管理から、摂理の輪から抜け出しているのか」


彼女が自分を神の一人だと言った時から何となく察していた。神の一人ということは、神が他にも沢山いてそれを纏める神も、生命に関わる神もいるということ。
そしてジャック自身も、神はいないかこの世界の摂理の輪から外れている。


「正確には『産まれる筈のなかった命』よ。神王によって産まれる命は加護と言うのかしらね。普通に生活出来る様に命が安定している。でもさくらちゃんは何故か、神王が何もしていないのに産まれてしまった命。加護も何も無い、存在が不安定な命なの。だから周りの運に左右されやすく、存在感が薄い。実際彼女の両親は滅多に会わないし常に一緒にいる友達もさくらちゃんにはいなかった。更にトリップ体質と言う、いずれは故郷の世界からいなくなってしまうモノまである。ーーー産まれた瞬間から神は誰もさくらちゃんを嫌っていないのに、世界が彼女を嫌ってしまった」


長々と語り終えた心乃原は自嘲する様に顔を歪めながら小さく笑った。重い空気が部屋を満たす。

暫くして沈黙を破ったのは桃簾だった。


「あんたの説明は解った。どうであれ、さくらはこれから永遠に異世界の旅に出なくてはならないんだな?」

「えぇ」

「そう重い顔すんなよ。おそらく、これからはさくら一人で旅するわけじゃない。このデカブツも一緒だ。力は頼りになる」

「デカブツとは何だ。それにサクラは俺と旅をするかまだ答えを決めていない」

「そうだけどよ。とにかく、さくらはさくらなりにこれまでトリップをしてきて、慣れてはいるがまだ不安だ。護身術程度なら俺もさくらに教えられる。元から、俺の隊はトリップの準備も、その後も手伝う予定だ。だから心乃原さんよ、心配すんな」


サングラス越しに目を細め明るく笑ってみせる桃簾。その顔を見つめたあとに、人間を愛する神は一言だけ言った。


「そうね、お願いします…」





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