「それにはいくつか理由があるな。一つはサクラは主の立場だから。下僕が主を迎えに行くのは通説だろう?最も大事なのはこの『契約』はこの世界で創られたルールだ。別の世界の奴が気付くことはそう簡単に出来ない」

「似ているってのは?」

「そのままの意味だ。確かにサクラは普通の人間だし、性格も俺と正反対だろうな。だが、俺と似ている。その確信はあるんだ。こればかりは具体的なことが何か解らん。まだサクラと逢ったばかりだしな」

「それは探るしかねぇってか」


桃簾の言葉にジャックは頷く。
そして、すぐにジャックは何かを思い出す様に「あ、」と呟いた。


「一番大切なことを言い忘れていた。…と、言うかまた思い出した」


「?」

「今、サクラと俺は正式に『契約 』していない状態だった。『仮契約』って感じだな。契約する前のお試し期間みたいなヤツだ」

「それを先に言えよ阿呆が!!」


さらりと言うジャックに、桃簾は再び部屋一杯に響くほどの大声を挙げた。それをジャックは拗ねながら「今思い出したんだから仕方ないだろう」と言う。さくらも開いた口が塞がらなかった。


「…して、『仮契約』ってのは?」


藍晶に宥められた桃簾は声の調子を元に戻し、ため息混じりに言う。ただ、眼は相変わらずジャックを睨んだままだった。


「お試し期間だと言っただろう。期間は1週間。その間に24時間以上離れると契約は解消され、俺らは互いに別の異世界へとトリップすることになる。勿論、一人でだ。…サクラはどうしたい?」

「わ、私!?」


今まで黙って空気と化していた自分に突然、ジャックが話しかけてきてつい声を張り上げるさくら。それをジャックはやけに神妙な趣で見つめている。


「仮契約にしろサクラは俺の主だ。主に従うぞ」

「わ、私は…その…」


バーン!!


さくらの言葉を遮り、ドアが大きな音をたてて開く。一斉に顔を向けると、そこには銀髪の人物が一人。先程の桃簾以上に睨みながらこちらを見ている。


「あ、おかえり琥珀」

「おかえりじゃねぇぞ桃簾!俺にめんどくせーマフィア潰しさせやがって!!しかも肝っ玉小せぇこっすいマフィアをな!!手間取っちまったじゃねぇかくたばれ!!……んあ?ジャックじゃねぇか!久しぶりだな!!」

「久しぶりだな、コハク」


ずかずがと暴言を吐きながら琥珀と呼ばれた人物は座っているジャックの頭を軽く、それでいて遠慮なく叩いた。そして、隣に座っているさくらを見つけて首を傾げる。


「誰だ?この小せぇの」

「は、はじめまして…」

「さくらだ!まぁ細かいことは後で話すとして、ジャックの契約者になった奴だぜ!」

「ほうほう…へーぇ」


睨まれながら見つめられるさくら。話を折られたにせよ、物騒な言葉にせよ、あまりいい印象は持てなかった。つい目線を逸らしてしまう。


「さくらって言ったな?」

「はい…」

「よっしゃ!!」

「!?」


突然だった。琥珀の口がにやりと笑い。瞳が好奇心で輝くと同時にさくらの腕を引き、立たせた。


「桃簾!ジャック!こいつ借りるぜ!一緒に風呂入る!」

「なっ…手前、報告も無しに…!」


「んなの後でで良いだろ?どうせ殺って片付けたで終わりなんだしよ!それより俺はさくらに興味がある。女同士裸の付き合いってヤツよ!」


豪快に笑う琥珀に、桃簾と藍晶はため息をこぼし、双子とジャックは「またか」と言う様に互いに顔を合わせる。話の中心にいるさくらは固まっていた。


「おー、どうしたさくら?」

「女の方…なんですか?」

「だぜ!!」


細いがしっかりとした体格、男物の服装、鋭い目つき、確かに中性的な声だが誰がどう見ても男にしか見えない。だが当の本人は女と言っている。さくらは驚きを隠せなかった。


「ってわけで風呂入ってくる!」

「と、桃簾さん!!」


「…こうなった琥珀は止めらんねぇや。話はまた明日にしようぜ!」

「頑張れサクラ」


笑いを堪える様に、微塵も心配していないジャックの声を最後にさくらは琥珀に連れられて部屋を出ざる終えなかった。





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -