「そんなに堅苦しくなんなって!俺、確かに社長でありマフィアのリーダーだけどさぁ!」

「飲み物、オレンジジュースをお持ちしたのですが、これで宜しかったですか?」

「は、はい!お構い無く…」

「「僕等はりんごがいいー!」」

「お前等は客じゃないだろうが。アイショウ、俺は紅茶がいい」

「厳密に言えば貴方もお客様じゃないんですよ。珈琲で我慢なさい。双子はオレンジジュースで」


広いソファーに座りながら、がやがやと賑わうのをさくらは肩身を狭くして眺めていた。


「だーかーらぁー!そんなに緊張すんなって!」

「ご、ごめんなさい!!って、碧玉くん!黒玉くん!髪の毛引っ張らないでー!」

「おい双子!大人げねぇぞ!さくらより歳上なくせに」

「え?」


桃簾の言葉で、さくらは双子を見合う。それを面白そうににこにことしていた。

「そうだよ!」

「さくらより10歳は歳上だね!」

「えぇぇえええええ!?」


「そんなの良いんだって!話進ませろ!!」


痺れを切らした桃簾の大声が部屋一杯に広がる。それでようやく双子も大人しくなった。さくらは直感的に「この人を怒らせちゃだめだ」と察する。



「さて、さくら。お前は『契約』が何か解ってるか?」

「よく解ってないです。…でも、互いを護るためにするってことは何となく解ります。あと、これから一緒に永遠にトリップすることになって、何故か私がジャックの主ってこと…」

「まぁそうだな。ぶっちゃけ俺も調べてみてそれぐらいしか解らなかった。全てを理解しているのは、さくらに契約を持ち込んだジャックだな。何で知ってるのかも是非教えやがれ」


桃簾がサングラス越しにジャックを睨む。それを涼しそうな顔でいなし、暫く黙りこんだ。話すことが多いらしい。数秒してから口を開いた。



「まず、何故俺が『夢渡り』出来るのかを話そうか。俺は元々霜の妖精だ。だが知っての通り、力が強すぎて怪物と呼ばれる様になった。力は増え続けているし、このままだとこの世界を滅ぼしてしまう。それぐらい存在が危険と言うことだ。だから『夢渡り』が突然出来るようになった」

「…意味がまだ解らないな」

「世界の摂理とも言えるだろうか。俺の様な妖精や魔獣、人外などは無から産まれる。親はいない。ある日突然、その場に産まれる。その無を産み出す実態のない何かが、世界を維持するために俺の意識をほんの少し、寝てる間だけ異世界へ飛ばしているってことだ。その間だけ力の増幅もないしな。それが『夢渡り』」

「その何かって、神様とかなの?」


さくらの故郷は神によって創られている。ジャックの説明で真っ先に思い浮かんだ存在だ。だが、彼は首を横に振る。


「この世界に神はいない。だが様々な因果や摂理があり、それが『枠』として創られることで世界は産まれる。漠然とそれは解るんだ。そして、俺はその『枠』に入りきらないモノということ。枠に入りきらないモノを、この世界はなんとか無理矢理枠に積めて押しとどまっている状態だ。だがそれも限界に近づいてきた」

「…?」


どうやら『夢渡り』は、それほど大きな力を持つモノがなるらしい。それを理解した時、ジャックの話を隣で聴くさくらは首をかしげた。「なら自分は何なんだ」とだがそれは訊かずに、彼の話の続きを聴く。


「これは、この世界の人ならざるモノの感覚なんだが…日に日に増す力に焦りを感じたとき、山天狗から『契約』のことを噂程度に聴いた。そして不思議なことに、気づいたら『契約』の内容全てを思い出していたんだ」

「何だ。知ってたのかよ」

「感覚だと前以て言っただろう。話の途中で横入りするな、トウレン。…先も言ったように、人外は産まれるとき独りで産まれる。確かに周りには似たような種族がいるかも知れんが、何も教えない。それは自分が産まれてすぐに『思い出す』からだ。頭の中に様々な情報が流れてきてな、それで自分がどういう存在か解る。それは忘れていたことを思い出す感覚に似ていた。『契約』の時もそれと似たようなモノだった。恐らく、必要な者に知識がその場で与えられるんだろうな。それほど早くどうにかしないと世界がヤバイってことだったんだろう」


長々と話したジャックはソファーに体を深く沈めて息を大きく吐く。しかしそれをお構いなしに、桃簾は更に質問をした。


「…それでも腑に落ちねぇことがある。手前は確かに、うっかりミスで世界を氷河期に変えちまうぐらい力が強いが、このガキは?さくらはどうなんだ。ただの中学生にしか見えない。しかも手前はさくらと自分が似ていると言っていた。それは恐らく存在についてもだろう?なのに何故さくらは『契約』について微塵も思い出さない?」


自分が思っていたことを桃簾に言われたさくらはただひたすら聴く。自分が聴いてもジャックはそれとなく誤魔化してしまうだろう。桃簾が訊いたのは、ある意味で正解だった。





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