「す、すごい立派だね…!」
「だろう?」
さくらが驚いているのを、ジャックは自分のことのように誇らしげに言った。
そのホテルはこの街には不釣り合いなほど立派で気品があり、白塗りの外装が日光に反射して輝いている様に見える。
「超高級ホテルって感じだ…」
「突っ立っていないで早く入るぞ」
「う、うん!」
ジャックに手を引かれ、中へと入るとやはりこの街には不釣り合いなほど綺麗な内装だった。働いている人もきちんとしている。さくらはジャックが受付嬢と話している間、視界から外れない程度にふらふら探索した。
「サクラ、行くぞ」
「は、はい!」
彼の手を繋いでからさくらは受付嬢に小さくお辞儀をすると、受付嬢も微笑みながら深々と礼を返した。
ジャックはさくらを引っ張って社員用のエレベーターに乗り、目的の階へと慣れたように降りた。
「ここは社員の階でな。社長のトウレンは勿論、他の社員も寝泊まりしたり、事務をしているな」
「でも、ここに泊まる人っているの?」
「いますよ」
「へぇ…って、誰…ですか?」
いつから背後に分からなかった。さくらはぎょっとし、ジャックは当たり前のように平然としている。
「失礼。私は藍晶と申します。桃簾の部下であり秘書をしている者です。桃簾がかなり乱暴なことをしたとか…お二人とも、お怪我はありませんか?」
「な、ないです!!全部ジャックが何とかしてくれて…むしろジャックが怪我してないかなって」
「あるわけないだろう。あんな攻撃で」
「ならよかった。さ、こちらです」
にこやかに藍晶という男性はさくら達の前を歩き、案内し始めた親切そうな人なのに何故かさくらは異様な違和感がある。どうやって音なく後ろに立っていたのか?桃簾の人離れした戦闘能力といい、ただのマフィアでホテル経営者ではないような気がした。
「桃簾、二人が到着しましたよ」
廊下の突き当たりにある扉をノックしてから藍晶は言う。扉越しから、「入れー!」と彼の声が聞こえてきた。藍晶に促され、さくらが扉を開けた。
「わー!きたー!」
「こんにちわー!」
「えっ?…きゃあ!!」
おずおずと扉を開けて、目の前には和を連想させる服を着た、鮮やかな緋色の髪をした双子。さくらが反応する前に、双子はさくらに抱き付き、その突然襲ってきた重さについしりもちをついてしまう。
「うわ小さい!」
「もっと大人っぽい人かと思ってた!」
「「とっても意外ー!!」」
「え?」
「碧玉!黒玉!避けてやれよ。驚いてんだろ」
部屋の奥にある椅子に座って、高級そうなデスクに肘を着けながら桃簾が双子を呼んだ。すると双子は「はーい」と同時に返事をして離れ、さくらをじっと見つめる。
「こんにちは!僕は碧玉!」
「僕は黒玉だよ!見分けつくかな?」
「うーん…慣れればたぶんわかるよ」
「「やった!じゃあ、二人とも桃簾からお話があるから、もっと中に入って!」」
話す言葉まで瓜二つの双子に背中を押されて、さくらは桃簾の前へ立つ。遅れてジャックが入ると、桃簾は突然立ち上がった。
「まぁ話は長くなるからな。森からここまでかなり距離あって疲れただろうし、とりあえずそこのソファーにでも座って話そうぜ」