そこは誰がどう見ても治安は良いとは言い難い所だった。
森を抜けて、細い小道を通ったあとにその街はあった。
街並は立派だが、昼間から路上で殴り合いをしていたり、煙草やそれ以外の、直球に言うなら麻薬を吸っている輩などがそこら辺にいる。恐らくさくらがここに一人でいたらすぐ何かしらの被害にあっていただろう。それが起きていないのは、手を繋いでいる彼のお陰だ。
「ねぇ、何であの人たちはジャックを見ると逃げてるの?」
「俺が怖いからだろうな。アイツらが束になっても俺には敵わん」
「へ、へぇ…」
不敵に笑うジャックを、さくらは逆におどおどした感じで見る。「彼と自分の何処が似てるのだろう」と考えてみるが、やはりそれは微塵も思い付かなかった。
「なんでここって、こんなに治安悪そうなんだろう…」
「悪そうではない。確実に悪いぞ。ここはもともと小さな独裁国家だったが、20年ぐらい前に独裁が崩壊してな。そこに漬け込んで、新しい体制が整う前に戦争で行く場所が無くなった者、マフィア関連の者など、とにかく一癖ある奴や行き場が無くなった者が集まり、巣窟になった。無論、体制も何もない」
「戦争?」
「あぁ。この世界は数年前まで世界戦争をやっていた。関係ない人間は勿論、俺の様な人以外の巻き込まれたな。長い間、酷く混沌としていたぞ」
「………………。」
先程の戦闘で嬉々としていたジャックも、こればかりは良く思ってないらしい。何かを思い出しながら目を細めた。
「そうだ、サクラ」
「?」
「この街は確かに治安が悪い。だが、何か違和感がないか?よく見渡してみろ」
「うーん…」
ジャックに促され、さくらは辺りを念入りに見渡した。
治安はどう見ても悪い。自分でも解るぐらい危なそうな店もたくさんある。だが、何が引っ掛かった。
「誰もこの街をまとめていないのに、確かに少し古いけど道路とか信号あるし、工事もしてるね。商店街とかもあるし…」
「そうだ。ここはある奴等によって纏められて、大分マシになってきたんだ」
「ある奴等?」
「さっき会った、トウレンが率いるマフィアだぞ」
「えぇ!?マフィアだったの…?」
周りが驚くほどのさくらは大声で驚いた。ジャックはそれを愉快そうに見ている。
「マフィアだ。あれは見事な手腕だったな。今はホテル経営もしている」
「私たちが向かっているところ?」
「その通り。…お、着いた」