さくらが目を開けたら、そこはもう住宅街ではなく静かすぎる森の中だった。森の中なのに生き物の気配がしない。ここだけ時が止まった様な感じだった。
「…ここがジャックの故郷の世界?」
「あぁ。ここは通称『時守の森』異世界からトリップしてきた奴はだいたいここに着くようになっている。俺はここを守護してる奴にサクラのいた世界へと渡らせてもらったんだ」
「そうなんだ…。あ、じゃああの人は?サングラスの…」
「アイツは部下の転送陣であの世界へと来た。ここにはいない。これから俺らはトウレンがいるホテルへ行かないといけないぞ。アイツやアイツの部下が良くしてくれるだろう。説明も」
あんな怖い人の部下が、良くしてくれるのがいまいち実感が湧かなかったけど私はジャックに頷いて彼についていく。暫く歩いていたらガササッて目の前の茂みが揺れた。
「おぉ!戻ってきたか!」
「山天狗。何とかな」
「は、羽…!!お面…!!」
私が驚いていると山天狗と呼ばれた人…?は首を傾げて再びジャックに顔を向ける
「ジャックよ。この少女は儂への供物か?どっちかって言うと少年が良かったのぉ」
「ふざけるなこのショタコン。俺の主となった小娘だぞ」
「……ふむ、 え、それ本当かの!??」
仮面をずらす勢いで驚き、山天狗という人はまじまじと私を見つめる。それが居心地悪くて、私は黒い羽を眺めていた。
「こうしていればどこにでもいる普通の少女だが…きっちり世界を渡る力と、面白いほどに運に左右される体質を持ってるのぉ。面白いのぉ」
「運?」
「そのままの意味じゃ。解らなくて良いぞ。理解できても対処の仕方がない。ところでジャック。お前さんは桃簾のところに行くのか?」
「あぁ。いつトリップするかも解らない。準備もあるし、ゆっくりしたいしな」
「そうかそうか。儂も後で遊びに行こうかの」
そんな挨拶をして山天狗さんと別れた私達。山天狗さん、よくわからないけどとても物知りで優しそうだったな。
「この森を抜けてすぐの街にトウレンはいる。治安がそこそこ悪いから離れるなよ」
「う、うん!!」
ジャックの腕をつかんで返すと、何が面白いのか彼は笑いながら頭を撫でてきた。これからずっと一緒になるんだもんね…早く解り合いたいな。