「撃ってきた!!」
「知ってる」
ジャックって人は横にずれて弾を避けた。と、思ったら後ろに下がる。何で?前を向けばすぐに解った。桃簾って人が回り込んできたからだ。速い。こんな身体能力、人間じゃないよ。
そしてそのまま、低い姿勢でジャックに向かってナイフを振りかざす。思わず目をつぶってしまった。
「全く…」
ジャックがそう呟いたと同時に突撃の寒気。純粋に、寒い。西日で暖かいはずなのに寒い。
何処からか解らないけど、ジャックは自分とナイフの間に小さな氷の壁を作っていた。それのお陰で当たらなかったらしい。更に、桃簾って人の四方に長めの氷の氷柱を出現させる。
「手癖の悪いガキは苦手だそ」
「チッ」
氷柱は桃簾って人目掛けて一斉に動いた。ジャックはそれを確認せずに走る。確認する余裕などないみたいな、一瞬の足止めみたいなものだろうか。
「手前…。友として忠告してやったのに…。もう怒った。ボッコボコにしてやる」
低い、どんな人でもすくむ様な桃簾って人の声が聞こえた。見ればバラバラに砕けた氷柱。まさか、ナイフで全部切ったのかな。この二人が暮らす世界では当たり前なの?トリップ先でそういうのはよくあるから、そんなに驚かないけど命が掛かってるのならまた話が違う。
ジャックにもその声は聞こえている筈なのに、面白そうに笑いながら走り続ける。
「ボッコボコか。やってみろ、俺は逃げるがな」
「待ちやが…うおっ!」
笑いながら桃簾って人に返すと今度は何処からか霧が出てきた。すぐに桃簾って人の視界を真っ白にさせる。その間に、私を担ぎながらジャックはさっきよりも速く走り出す。あの人の姿があっという間に見えなくなった。
「何、水を水蒸気にして目くらまししただけだ。心配はいらない」
「そ、そうじゃなくて!契約って!?私、あなたのこと知らないし!何かなんだかさっぱり…」
暫くしてからジャックは「ふむ」と呟いて私を降ろす。場所は近くにある大きな公園の森の中。見れば見るほど浮世離れしてる美形だ。きっとこれが、イケメンってやつなのかな。…って思ってたらデコピンされた。
「いてっ」
「惚けてどうした?」
「い、いや別に…それで、契約って?」
「結論から言おうか。サクラ、お前は俺と似た存在だ。だから俺と同じく、お前もこのままだと自身の力に飲まれて自滅する。それを防ぎたいのなら、俺の主になると契約しろ」