「…戻ってこれた」


いつからかな、朝起きて最初に言う言葉がこれになったのは。
いつからかな、寝てるときに別の世界に渡れるようになったのは。
意識だけ渡ってるから、起きたらまた私の住んでる世界に戻ってこれる。でも、寝た気がしない。


「寝てる8時間のうちに別の世界で10日過ごしちゃった」


身体の疲れは取れているらしくって、寝起きはいつもスッキリしている。
今年の四月に13になって、まだ中学生なりたてなのに…この、俗に言うトリップ体質はずっと私に付きまとうのかな。


顔を洗って、まだ真新しい制服に着替えて朝ご飯。お母さんもお父さんも仕事で海外なことが多くて、ご飯は頑張って私がつくってる。

さっさと食べて学校に向かう。鍵はちゃんと閉めた。真新しい制服はこれから成長期になるって言われて少しぶかぶかだ。袖がもつれる。


「あ、おはよー。さくらちゃん!」

「お早う」

「おはようごさいます。心乃原さん!氷月さん!」


学校へ向かう途中で、ご近所の心乃原さんと氷月さんに会う。高校生の制服を着ているが、実は何でも屋をやっている人だ。そして何と、元神様だって。私のトリップ体質のことも、よく相談に乗ってくれる親切な人。


「今夜はどの世界に渡ったの?」

「田舎っぽいところです。皆親切でしたので、何事もなく過ごせました」

「それは幸いね!」

「はい!あ、じゃあ私、学校こっちなので」

「いってらっしゃーい!」

「いってきます!」


ぶんぶんと手を振る心乃原さんと、無口ながらも軽く手を振ってくれる氷月さんに見送られて、私は学校へと向かった。



「相変わらずさくらはトリップ体質なのに前向きだな」

「それが彼女の良いところよー。普通の人間なのにトリップ体質。そして良くも悪くも運の良さ。さすが、『産まれる筈がなかった人間』だわ」


ふふっと、面白そうに微笑む心乃原が笑う横で氷月は顔をしかめる。

「…心乃原」


「そんな顔しないの。この世界に客人とは珍しいわね。荒れるわよ…まぁ私達には関係ないけど」





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