「あ、シドレ達か。丁度良いところに来たね」 「なんでしょうか?」 ふとした用事で二年生のシドレ、ワール、アイはツバサがいる職員室まで足を運ばせていた。そして、用事を済ませたところでツバサに声をかけられたところだ。 「今さ、提出されたノートの点検をしてたんだけどこれだけ名前がなくてさ。ちょっとノートの持ち主に渡しておいて」 「解りました!えっと、その方の名前は…」 「イヨだよ。3Bの」 「イヨさん…!!」 イヨという名前にシドレは異常に反応した。当然それをワールとアイは見逃さない。ややこしいことになるのをすぐ悟った。 「じゃあ一人じゃあれだし…ワールがシドレについてってよ。アイは俺の作業手伝って」 「了解です!」 そう返事をしたのはアイではなく、目を爛々と輝かせたシドレだった。 ・・・・・・・・・・ 「しまった…」 「どうしたの?イヨ」 「今日ツバサ先生に提出したノートに名前書くの忘れてた」 「あちゃー。おっちょこちょいだね…ってごめんなさい。睨まないでよ!」 あははっと隣で笑う十闇に向かってイヨが睨むと大袈裟に手を振って謝る彼。相変わらずの能天気にイヨはため息をついて鞄からスティック型のチョコが塗られたお菓子が入っている箱を出した。 「いつも食べてるけど飽きないの?」 「好きなモノはなかなか飽きないだろう?」 「あ、あの!」 「?」 今まさに箱を開けようとした時、後ろから明るい声がイヨの動きを止めた。振り向くとそこには長い金髪に赤いリボンを結っている女子生徒と、なぜか木刀を持ってる朱色に近い髪色の男子生徒がいた。 「3Bのイヨさんですか?」 「そうだが…」 「ツバサさんに頼まれてノートを持って来ました!」 「どうぞ」と手渡されたのは確かに自分ノートだった。 「ありがとう、すまないな」 「いえいえ、大したことはありません!ですが、その…」 「どうした?さっさと言え。」 「…あの!抱きつかせてください!」 …………………………? 「…は?」 「なにそれ?」 シドレの言葉に当然イヨも十闇も頭に「?」を浮かべ、ワールはため息をついた。いつものイヨなら突然そんなことを言われると一蹴するのだが、自分を捜してノートを持ってきた彼女を無視するわけにもいけない。 「えっと…確かにノートを持ってきてくれたからな…それぐらいで良いのなら幾らでも…「ではいただきます!」!?」 イヨのその言葉を待っていましたと言うようにシドレは勢いよく彼女に抱きついた。不意を突かれてよろめきそうになったところをなんとか堪える。 「いや、去年から綺麗な人だなとチェックしていたのですがなかなか機会がなく…しかしようやく巡ってきました!やはり女性の身体は触り心地が良いです。ワールみたいな固い身体とは全然違います!すらりとした肢体がたまりませんね!ふひひ。あぁたまりま…「シドレ!いい加減にしろ!!」 ワールの怒鳴り声に小さく体を震わせてイヨを抱きしめる力を緩めた。さりげなくイヨも彼女の腕をすり抜けて数歩後ろに下がり距離を置く。 「私としたことが…すみませんでした」 「え、いや…別にそこまで…」 「本当ですか!?」 「い、いや…そうではないが…」 「そういえば自己紹介がまだでした。私はシドレ・セデレカスと言います!これから宜しくお願いしますね!色々な意味で!」 「………あ、あぁ…?」 「では今日はこの辺で、失礼しました!」 「迷惑かけました。ほら行くぞ!」 シドレが眩しいぐらい明るい笑顔で、ワールが申し訳なさそうに謝ってから二人と別れた。それから珍しく言葉を詰まらせながら完全に押し負けをしたイヨを十闇がクスクスと笑うと、見上げながら彼を睨んだ。 「十闇、何故助けなかった…!他人にあんなに触られたのは、久、々だったぞ…!」 「触られるの苦手なのに頑張ったね。偉い偉い。オレも大変だったんだってー。あの子さ、短い時間にたくさん色んなコトを考えてるし、妄想とかも…それで酔った…」 「…そうか」 「また面白そうな子と知り合っちゃったねー。良い子っぽいけど」 十闇の言葉にイヨは返事をせずに持っていた鞄の中にノートをしまった。 |