以前、ソラはイヨに何気なく訊いたことがある。「イヨさんってどうやってそこまで強くなったの?」と。イヨは苦笑しながら自身の小さい頃の話、つまりはタナトスに拾われた時の話を大雑把にした。


「そして、師は紲那と言う能力者だ。革命組織に所属している能力者の中では一番強い。私はそいつに戦闘の基礎を教わったぞ」

「ふぅん」


イヨの大雑把な説明で、何となくソラは自身に刀を教えてくれた人を思い出した。その人と重なり、厳格な何処か年寄りた人を何となくイメージし、この話題はここで終わった。




・・・・・・・・


「あら、イヨですか?」

「む?」


いつもの様にイヨとソラが街中を散策していた時、丁寧な口調でイヨを呼び止める声があった。
二人同時に振り向くと、相手も二人組。一人は黒髪、ありきたりなショートヘアーで左目を前髪で隠し、またありきたりな薄い長袖とズボンを履いていて、もう一人も同じく黒髪だが前髪は真ん中分け、隣の人物より少し眺めの髪にとても身長が高く服装はワイシャツにスーツのズボンとこれまたよくある格好だった。


「あら?やはりこの格好では解りませんか」

「三週間振りだな!イヨ」


「えっ、なんで、」

「イヨさんの知り合い?」


ということは能力者か。そんな感じがしてソラは二人を見つめる。すぐに前髪で左目を隠している男性と目が合い、気まずくなった。
一方隣のイヨはある程度状況を整理し、ため息を着く。


「能力で変装してまでこちら側に来たかったのか?」

「彼が行きたいって煩いんですもん」

「一度来て見たかったんだよな!…そういえば、イヨの隣にいる奴誰だ?任務の連れか?」


彼が血のように赤々しい瞳でソラを見つめると、イヨは間に立ち「友人だ」と簡潔に、ソラにとっては物寂しい言葉で返す。


「ここは人間と異能者が共存してるからな。別に能力解いても問題ないぞ」

「えっ!俺も解いて大丈夫なのか!?」

「余程能力者を研究している奴じゃない限りお前の名前すら知らん。それに、お前らをソラにも紹介したい」

「なら解くしかありませんね」



どうやらこの二人の姿は偽物のようだとソラが納得したのも束の間、気がついたら二人の容姿は変わっていて、思わず「えっ」と声を上げてしまう。

先程の黒髪二人組は何処に行ったのだろうか。
小柄な方の人物は前髪は相変わらず左目を隠しているが、黒髪から水色髪に。さらに髪も背中まで伸びていて無造作に毛先が跳ねている。ありきたりな長袖の服すら白いワンピースの様な丈の長い服に変わっていた。
もう一人は服装や黒髪なのは変わりないが髪が若干伸びて前髪を後ろ手に縛って、能力が掛かっていた間は窮屈だったのか肩をゴキゴキと回していた。


「びっくりだろ?私ですらいつ変わったか解らない」

「うん。本当にびっくり…」


「改めて紹介しよう。水色髪の胡散臭そうなのがアゲハと言う能力者。彼の能力で容姿が変わっていたんだ」

「初めまして、ソラさん」


にこり、とアゲハは不気味な程綺麗な笑顔でソラに微笑みかける。何処かボスの一人であるツバサに似たようなモノを感じた。


「そして、こっちのでかいのが紲那」

「紲那って、前に言ってたイヨさんの…」

「あぁ。革命組織最強の能力者だ」

「その言い方やめろよな。恥ずいから」


自慢げに語るイヨの隣で呆れながら紲那は腕を組んだ。
目の前にいる男が革命組織で一番強いとされる男。自分は足元にも及ばないぐらいの強さかも知れない。更にイメージと違って二十代前半の容姿だ。飄々としているが、身体の大きさのせいで余計に感じられる威圧感が只者ではないのが解った。



「何でこちらに来た」

「観光ですよー。イヨがこちら側の話ばっかりするから、来たくなって」

「俺も。無理矢理着いてきた!にしてもどうだ?最近」

「順風満帆。任務の量は呆れる程多いが、異能者の友も出来て楽しいぞ!」

「そいつは良かったな!」


紲那がイヨの頭を雑に撫でる。突然上から覆い被さった手によろめきつつもイヨは満更でもないように受け入れていた。表情は何処か嬉しそう。自分にはまだ出来ない事が行われている状況にチクリ、とソラの胸が痛んだ。


「『オレはまだイヨさんにそんなこと出来ないのに』…みたいな顔してますね?」

「何ですか」


いつの間にか隣に立っていたアゲハは長い裾で手を隠しながら愉快そうに口元に当てていた。


「紲那はあの天然さんを育てたド天然ですから。コンビも組んでた時期もありましたし、しかし恋愛感情は無いのでご安心を。父親と子供、師と弟子、兄と妹みたいな関係ですね」

「…何か、アゲハさんはとても胡散臭いんですね」

「失礼な。まぁよく言われますけど」


それでも笑みを絶やさないアゲハを呆れながらソラは横目で見る。隠れている左目が気になるが、訊いてはいけないだろう。
アゲハは気にしていないが、ソラにとっては再びの気まずい雰囲気。暫くしてから一通りイヨと紲那は話してからソラに向き直り、それは終わった。


「イヨの話だと、ソラが所属してる組織って強い奴たくさんいるんだろう?行ってみてぇなー」

「突然の訪問は駄目だぞ」

「解ってるっての!あー、強い奴と戦いたい…」


単純な理由を惜しむことなく漏らすと残念そうに紲那は項垂れる。隣でイヨはため息をついた。


「多分、紲那さんと手合わせしたい人とか結構いると思うし、大歓迎ですよ」

「本当か!?次来たときはソラの伝手で邪魔させて貰おうかな…。まぁ、そんときは宜しくな!」


一気に表情を明るくさせ、屈託の無い笑顔を見せる紲那にソラは拍子抜けしてしまう。あのイヨが強いと言っているのなら事実だろうが、見た目では底が計り知れない。

再びイヨが紲那に礼儀がなっていないと叱咤する中、アゲハは相変わらず胡散臭い笑顔。ちらりとソラに目線を配ってから含み笑いをした。


「…まだ俺に何か?」

「いえいえ。貴女の恋路は正に茨の道だなと。イヨは恋愛に関しては箱入り娘ですし。言葉や態度で行動あるのみです。ふふふっ」

「…なんでそのこと」

「イヨへの視線を見てれば解りますよ。若いですねぇ。いっそ、今日にでも押し倒すなり何なりすれば良いですよ」

「あのですね…」


しかしアゲハは、今日初めて動揺を見せたソラに再び笑ったあとに突然、穏やかであるも真摯な表情で彼女を見た。当然初めて感じる雰囲気にソラも自然と強ばる。
不思議と周りの騒音が大きくなり、紲那とイヨの声ですら聞こえづらくなっていた。


「…貴女の死期はそう遠くない未来にあるのですね。左目の能力上、感じ取ってしまうのですよ」


アゲハが感じ取ったのはソラにかけられた『呪い』のこと。衣服で隠れていてもアゲハの『死ノ目』は見抜いてしまう。
そしてソラの返事がないままアゲハは話を続けた。


「貴女がその死期を自身で早めるかどうかは解りません」

「…何が言いたいんです?」

「私如きが厚かましいですが、もし貴女の気持ちがイヨに伝わって叶った後、貴女がいなくなった後のコトも少しは考えてくださいね?それだけです」


「おーい!アゲハ!何話してんだ?そろそろ帰らねぇと駄目だろ?」


騒音が止み、少し離れた所にいる紲那の大声が二人の耳に入ると、アゲハは軽く手を振った。


「ただの老婆心ですのでお気になさらず。成就すると良いですね。それでは」


会釈をし、イヨに別れを告げるアゲハ。手を振った紲那にソラはいつもの無表情で別れの手を振った。


「変な奴等だろう?」

「うん…。思ってた以上だった」

「ソラ、アゲハに何か言われたか?あいつの話は胡散臭いから気にするな!私だって今でもからかわれる」

「何も言われてないよ。行こう、イヨさん」


不安げに覗き込むイヨからさりげなく顔を逸らし、急ぎ足で手を引くソラ。
それはどこかアゲハの言葉をかき消す様に、否定するかの様に見えた。




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オチが思いつかなかった。
ほんわかするつもりだったのに…あれ?おかしいな…アゲハのせいだ…




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