長い時の中で、みんなみんないなくなった世界。この世界はあなた達の願いの様にとても穏やかで平和だ。 「…うん、そうだね。今日は晴れてるしゆっくり散歩しようか」 人通りが多い学外の街中で、白髪の青年は誰もいないのに一人で話す。誰もいないわけではない。彼にしか見えないのだ。昔は稀に見えたヒトもいた。だがこの平和になった世界で、見えるヒトは稀以下だろう。 「…?」 そんな中でだった。人混みの隙間から、彼の少し離れた前を歩く人物。後ろ姿でも解った。遠い昔に見たことある姿だ。 気づいたら自分はその後ろ姿目掛けて走っていた。色んな思考が駆け巡る。確かにあの人は並大抵のことでは絶対に死なないのは知っていたが、それでも遇えるなんて思いもしてなかった。何しろ時が経ち過ぎている。 まだ自分が小さい頃、自分が敬愛していた恩人がとても大切にしていた人物。 「ひさしぶり」 ぽすっ、と彼はその鮮やかな金髪の人物に背中から抱き付く。何処か懐かしい匂いがした。 「…白亜?」 久々に呼ばれた自分の本当の名前。昔と変わらない姿と声色に彼はつい目頭が熱くなる。 「久し振り!ツバサさん…!」 年数を数えるのが億劫な程、久し振りの再会をした瞬間であった。 ・・・・・・・・・ 「大きくなったね」 「こんなに年月経ってるんだもん。成長もするさ。もう止まってるけど」 とりあえず、二人は近くの公園のベンチに座っていた。白亜の服装は学校帰りで制服。スポーツバックまで持っている。学生として過ごしているのを、ツバサは意外だと驚く。 「今更学生?って感じでしょ」 「バレた?それに、部活入ってるのかな」 「バスケ部だよ。意外でしょ?スカウトされちゃって」 「本当に意外だな」 「でしょ?そういえばこの世界で学生をしたことないなーって思ってさ。三年だけだし、なってみるコトにしたんだ。藤井シロって偽名で」 「そっか。ここ数百年で君達にとって過ごしやすくなったからね」 「…うん。でも数百年じゃきかないかも。それに、もう皆いない」 思い出すように寂しく呟く白亜の隣で、ツバサは「そうだね」と肯定する。自分達の知り合いや、大切だと思う人はもういない。嫌いだった人ですら懐かしく感じるほどに。 「あのねツバサさん。俺さ、ここでちゃんと眠りたいんだ」 「死にたいってこと?でも、確か『転生』って能力が」 「そうだよ。でも、最近大きく能力使ってないし、もしかしたら俺自身の力が弱くなってないかなって。それで、『転生』の力も薄れてないかなって根拠のないコトを考えてしまうんだ。根拠がないから易々と死んだりはしないんだけど。俺はこの世界できちんと死ねなかったら絶対、後悔する」 「後悔か…。俺自身もなかなか死ねないから何となく気持ちは解るかな」 昔と変わらない何処か感情のない綺麗な顔で笑うツバサ。その横で白亜は首を横に降った。 「『不老不死』で同じ世界にずっと留まるツバサさんの方が辛いのかも。俺はとりあえず死ねるし、死んでも別の世界でまた生まれるから」 「どうだろう。…それにしても変わったね」 「え?」 「一人称が『俺』になってるし、白亜が小さいときは触っただけで何かしら俺に傷がついたし、正直言ってあんまり好意は抱いてなかったでしょ?」 「…あー、うん。そうだね…本音を言っちゃえば…」 バツが悪そうに白亜は目線を反らす。それをクスクスと笑うツバサの笑い声を聞いてから、白亜は小さく咳払いをして再び話始めた。 「変わったんじゃなくて戻ったんだよ。あの時は本当に、ただの子供だった。子供ながらも、あの人と貴方の関係が羨ましくて嫉妬してたのかも。でもとても幸せだった」 「…やっぱり寂しい?」 ツバサの言葉に白亜は否定的に首を振った。そして、おもむろにベンチから立ち上がる。 「寂しいよ。でも、あの人達は、あの人達が願った穏やかな今の世にちゃんと普通に…平和に生きてるから。俺はそれでいいんだ」 「は?」 「暇なときに学校に来てよ。ここら辺じゃ有名な学園都市あるでしょ?俺、あそこに通ってるから。都市内なら自由に入れるし、運が良ければ逢えるかも。解ってても驚くよ。絶対」 矛盾している白亜の言葉の真意をツバサはそれとなく理解する。頷くと、白亜は子供の時によく見せた無邪気な笑みをした。 「まだまだ話したいコトたくさんあるんだ。近いうちにまた会おうね、ツバサさん」  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ Re:の世界観での話を書きたくて…つい。 |