※まさかの誰得。共鳴ディソナンスとトリップ組のコラボです。





「着いたね!」

「そうだね」


葵達は慣れた様にトリップした新しい世界に着いた。目の前には日本家屋を思わせる大きな平屋。辺りを見回すと普通の、近代的な住宅街。日本に近い雰囲気の世界だ。

とりあえず、家の玄関先にいるのは良くないと後ろを向いた時、戸がからからと開いた。

中から出てきたのは黒髪で丸い留めもので毛先をまとめている女性だった。
その女性は葵達と目が合うと優しく笑う。


「いらっしゃい、待ってたわ。取り敢えずあがって!」

「え、わわっ」


嬉しそうに笑いながら女性は葵達の後ろに回って押しながら、半ば無理矢理家の中へ入れた。


「氷月ー!灰々ー!ちょっと来てー!」


中へ入って女性は廊下で名前を呼んでるなか、智雅は葵に小さく耳打ちした。


「葵ちゃん、あの人どう思う?」

「…悪い感じはしないかな?今のところは。山田さんは?」

「あの女、神の類いだな」

「へ?」


山田の妙な言葉に葵が聞き返すも、「何ですか?」という少年の声にかき消される。前を見るとすぐにその容姿に驚いた。少年も突然の客に驚いている。


「し、心乃原さん!!お客様がいるなら前々に…!尻尾と耳そのままで来ちゃいましたー!!どどどどうしよう!!」

「わー!それ、本物?」

「は、はい。信じてもらえないかも知れませんが…僕は九尾なのです」


震えながら灰々は智雅の問いに答え、その彼は興味深そうに灰々の耳を見ていた。その次に、奥から銀髪の男が出てくる。


「心乃原。こいつらがトリップしてきたという奴等か?」

「そうよ。ふふっ、何かの縁ね!さ、居間はこっちよ!」


何故来るのを知っていたのかを訊く前に心乃原に連れられて三人は居間へ着く。氷月と灰々がお茶を出すと、心乃原は「さて、」と話を切り出した。


「私は心乃原っていいます。ここで命を対価に願いを叶える何でも屋をしているの。彼らは私の手伝いをしているわ」

「なぁ、お前とそこの銀髪の。人間じゃないだろ?」


珍しく山田から他人に話しかけた。智雅と葵が驚いているのを心乃原は面白そうに見る。そして、山田の言葉に頷いた。


「えぇ。私はアガリアレプトっていう神様。元だけどね。彼なんか二つも掛け持ちしてたのよー」

「この世界の神名は役職みたいなモノだからな…掛け持ちもできる。だから、神には変わりないだろう」

「貴方が人の中に入っていても力は使えるでしょ?それと似ているわ。ヤマタノオロチさん」

「ほう」


一目で自分について見抜いた心乃原に、山田は愉快そうな声色で言った。
今度は葵と智雅に目線を合わせ、心乃原は話を続ける。


「何故あなた達がここへ来るのが解ったのは私が上級の神様だから。で、何故あなた達を家へ呼んだのは…そうねー、この家なら泊まれる部屋もたくさんあるし、あなた達も落ち着いていられる。あと興味があるからね。聞きたいこともあるの」

「聞きたいことですか?」

「あなたはトリップ体質よね?なら会ってるかなって…茶髪のお下げで、セーラー服を着ている、さくらって名前の女の子」

「は、はい。よくトリップ先で会って、お互い頑張ろうねって。今、さくらちゃんはジャックっていう怪物と契約していて、一緒に行動してます。…あの、どうしてこんなことを?」


「この世界は、さくらちゃんの故郷なの。そして私は彼女を見守っていた。まさか彼女がこんなに早く巣立つとは思わなかったわ。でもこれもきっと必然ね」


ふふっ、と先程とは少し物悲しい笑みで心乃原は笑ってからこの世界にいる間、ここに泊まることを提案した。そして葵達は取り敢えず今日は様子見として泊まることにした。








・・・・・・・・・・


「少しいいかしら?」


その夜、葵と智雅が寝た頃に山田の泊まっている和室にゆったりとした寝間着を着た心乃原がやってきた。


「何だ?心乃原」

「名前を覚えてもらえて光栄だわ、山田。寝酒に付き合ってもらいたくて」


そう言って心乃原は部屋に入り山田の横に座る。持ってきた盆の上には酒と入れ物が置いてあった。山田の分の酒を入れてから自分のを注ぐ。


「…この世界は妙に人間以外の気配が多いな」

「神が作ったからね。役割が細かいし」

「管理してるのか?」

「見守っているのよ。人には関与してない。するとしたら、それは人が命を掛けた時ね」


昼に言っていた何でも屋のことか、と納得して山田は心乃原の話を聞き続ける。音のしない部屋で落ちついた時間が流れた。


「私は世界が好きよ。人間も、それ以外の者も護りたい」


小さく笑いながら心乃原は再び山田に酒を注ぐ。


「貴方もでしょ?関与しないし、人を食べているけど、人や世界が愛おしい」

「……………」


とん、と心乃原は山田の肩に自分の肩を置く。返事がなくとも彼がどう思っているのかは伝わった。






・・・・・・・・・・・


この世界でのんびりと過ごした数日後、葵はトリップする前兆であるいつもの寒気を感じ、心乃原に言う。


「そう…もう行っちゃうのね。寂しいわ」

「本当に、何から何までお世話になりました!」

「いいえ、こっちも楽しかったわ。対価はそれで充分ね!…さて、ちょっと神様らしいことしてみようかな」


「心乃原」と、氷月が呼ぶが、心乃原は心配しないでと言うかの様に頷いた。そして何かの術を呟く。それを自分に向かって使ったのだと葵は直感した。


「次の世界でさくらちゃん達に逢えるようにおまじない的なモノよ。あと運があなた達に味方する様にってね!先は長そうだけど、頑張って」


世界は星の数程ある。おそらく、彼女達にはもう会えないだろうと思うとさすがの心乃原も本当に寂しかった。だから、せめての餞別を


「灰々の尻尾はもう触れないのかー」

「触られる身にもなってくださいよ智雅さん!…でも、どうかご武運を」

「ん!山田も美味しいお酒のめなくなって残念だね?残る?」


「ふざけんな。まだ俺の目的達成してないだろ」


からかい混じりに智雅が言うといつものキツめの口調と目付きで返し、それから少しだけ心乃原を一瞥した。
葵が突然、智雅の手と山田の服の裾を掴む。本当に、もう別の世界へトリップする間近らしい


「それじゃあ、さよなら!」



その言葉が言い終わるや否や、葵達の姿が消えた。最後まで心乃原は微笑んでいた。


「…行っちゃいましたね」

「心乃原、彼女達はこれからどうなる?」


葵達が居た場所を見つめつつ、氷月は柄にもなく不安そうに言った。だが心乃原はそんな彼や灰々の背中を叩いてから家へと戻ろうとする。


「そーんなの知らないわよー。でも…そうね、彼女達の旅路に幸多からんことを」





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