※もしさくらが山田くんに片腕あげちゃったらどうなるの?ってノリで書いたif話です。
※少しグロ注意かも




今回、トリップした世界は人が誰もいなかった。当然、慣れない世界での野宿。食料も探さねばならない。ジャックとは別れて各自で何か食べれるものはないかと、さくらは森の中を歩き回っていた。


「ないなぁ。食べれそうな果物とかあればいいのに…」


ため息をついて少しだけ休憩と足を止めた。その時、後ろの茂みが揺れる音がさくらの耳に入り、振り向くと同時に数歩下がる。…が、現れたのは獣でも危険なものでもなかった。寧ろ、知っている顔だ。


「…山田さん?」

「生娘か」


目つきは相変わらず鋭く、低い声だがそのまま地面に座り込む山田に、何処かおかしいと持ち前の第六感で見抜き、さくらは自分から彼に近づいた。


「何処か具合が悪いの?」

「んなわけねぇだろ。神たぞ俺は?そんなことも忘れるぐらい低脳なのか?」

「そんなことないです!でも、本当に具合悪そう。お熱?風邪?」


さくらは山田の額を触ろうと手を近づける。するとふいに山田に手首を捕まれ指を喰われそうになった。すぐに振り払って距離を置く。


「な、なにすんですか!!!?」

「喰ってもいいってことじゃなかったのかよ」

「そんなわけないでしょ!!もう…。あ、もしかして…山田さんがここにいるってことはトリップしてきたんだよね?人がいないし…お腹空いてるの?」

「生娘にしちゃ物分かりがいいな。腹減ってそろそろやばい」

「…………………」


山田の返答にさくらは納得がついた。いつもならジャックがいなくてもいきなり喰おうとはしない。否、何回も会ううちにしなくなったと言った方が妥当だろう。
なのに、近づいただけで喰われそうになった。かなり危ないのだろうなと、さくらは結論づけた。 そして、一つの答えを見つける。


「あ、あの、やっぱり痛い…?」

「何が」

「その、引きちぎったり…されたら、痛いですよね…?」

「悲鳴あげてるしな」


山田の言葉にさくらは恐怖で体をふるわせたが、手をきつく握って次の言葉を出す。


「えっと、その…いいよ。足とかはダメだけど、片腕とかなら…もちろん、利き腕もダメだよ!」

「は?」

「だ、だから!!あげますって!私の片腕!!食べちゃってもいいよ!!って…」


唐突に、今にも泣きそうな顔で大声を出したさくらについ山田も驚いた。それに、あれ程喰うなと自分に言ってきた目の前の少女の思考が理解できない。


「どういう風の吹きまわしだ?喰えるなら別にいいが」

「だって、山田さんが死んじゃやだもん…山田さん、葵ちゃんや智雅くん達の大切な人なんでしょ?それに、目の前で死なれちゃ後味悪いって言うか…とにかく…」

「…………。」


あの二人が自分を心配している筈がないと思いつつも口には出さずに山田は
目に涙が溜まっているさくらを見た。
自分から一部分だけだが喰っていいと言ってくる人間はそうはいない。
まぁ山田にとって食べ物があるなら理由などどうでもよかった。


「とりあえず、喰うのに上邪魔だから脱げ」

「…っ、」


山田に指示されたとおりにさくらは怖がりながらも制服の上を脱いだ。中はタンクトップで、片腕を取るだけならそれだけでいい。

彼の手がさくら利き腕じゃない方…右腕を握った。このまま引きちぎるのだろうかと考えると一層身体は強ばる。



ブチッ、と嫌な音がした。痛みは自分の腕からだとすぐに解った。思わず目を瞑る。

『だ、大丈夫…燐灰さんから止血の術教えてもらったし、痛いだけ…死なない…っ』


「い゛っ…あ゛ぁ!!」


そう思っていても痛みは変わらない。さっきよりも大きな音が聞こえた。生温い自分の血が制服から染みてきたのと、腕が変な伸び方と曲がり方をしているのが嫌が応にも感覚で伝わる。

痛みを紛らわすために叫びたいところだが、叫んだらジャックに気がつかれて大ごとになりそうなのと、さくら自身の妙なプライドがそれをさせなかった。

肉が裂けたり骨が折れた音を聞きながら痛みに耐えていると何かが無くなった感触がした。恐る恐る目を開けると右腕がずたずたに引きぢられ、先から血が止めどなく溢れている。顔を上げるとちょうどさくらの千切った腕の指を山田が喰っていた。

『よかった。…早く止血しないと』

と、山田に微笑みをみせてから無事な利き腕を傷口に当てようとするも、そこでさくらは意識を失った。





・・・・・・・・・・・



「ーーーーーーサクラ?」

「どうしたの?ジャック」


さくらと分かれて食料を探している時、ジャックは偶然智雅と葵に出会った。そのまま三人で雑談をしながら辺りを散策していたが、ふとジャックは足を止める。


「ジャックさん…?」


葵が不思議そうにジャックを見上げる。柄にもなく、焦っている様に見えた。


「胸騒ぎがする。サクラが危ない…!」


二人のことをお構いなしにジャックはさくらのいる元へ駆けた。実際、彼の勘は当たっている。さくらと契約したジャックはもはや彼女と一心同体。彼女が危険な状態になればそれは自然とジャックにも伝わるのだ。 彼女の場所も何となく解る程に。


『危険ならば何故俺を呼ばない…!サクラ!』


まさか、呼べない状態なのか?色んな考えがジャックの頭をよぎる。
すぐにさくらを見つけ、その光景に目を疑った。


「あ、見つけ…!!」

「さくらちゃん!」


後から追いついた智雅も言葉を区切らせ、葵はさくらの名前を呼ぶ。ジャックはすぐに意識がないさくらの片腕が無くなっているのを確認すると、急いで傷口を凍らせ止血をし、智雅も異能を使って処置を始めた。

その中、葵はさくらの傍で立っていた山田を訝しげに見る。


「とりあえず、あんなに血が出ていたのに命に別状はないよ。さすがに腕を元通りにするのは無理だな。傷口は綺麗にできるけど…」

「すまない、トモマサ。サクラはこれでも俺の血が入っている。回復するのは早い…だが、その前にヤマダ」


ジャックはさくらを横に寝かせ、立ち上がると着物が血で汚れている山田を一瞥する。いつもの様に彼は煙草を吸っていた。


「何だ?」

「サクラの腕は美味かったか?」

「あぁ。…勘違いすんなよ?あの生娘から寄越してきたんだ」

「そうか」


瞬間、ジャックは一気に距離を詰めて山田を殴った。少しだけ怪物としての本性をあらわに、物足りない目つきをしつつもジャックは一発殴っただけでそれ以上はしない。


「本当は殺してやりたいところだが、俺の主が決めてやったことだ。それだけで済ましてやる。許してはやらないがな」

「そうかい。勝手に恨んどけよ」


険悪な雰囲気の中、さくらの体がぴくりと動く。そのまま瞳を開けた。起き上がって見回すと葵や智雅がいて状況が飲み込めなかった。


「あれ…?葵ちゃん…」

「さくらちゃんのバカ!何で山田さんなんかに片腕食べさせちゃうの!!」

「だって、お腹空いて死んじゃうって」

「それぐらいで死なないよ!…もっと自分を大切にして…!」


両肩を掴まれて葵に怒られたさくらだが、片腕を喰わせたことについて後悔はしていない。ただ、心配させたことについて反省はしていた。


「ごめんなさい…。智雅くんも、治してくれてありがとう」

「もー!本当に、山田のためにこんなことするのやめてよね!」

「人間は不便だな」

「蛇には到底解らんさ。死ね」


未だに怒っているジャックをさくらが宥めようとした。だが、疲労が残っているせいか、いつもより声が弱々しい。

「説教は回復した後だ。今は寝ろ」

「ん…おやすみなさい…」

「…若さ故の過ちかもしれないが、本当に、自分を大切にしてくれ」


再び眠りについたさくらに向かってジャックは静かに呟いた。








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