「ジャック…早く水浴びから上がらないかなぁ」


とあるトリップ先、私はジャックと一緒にいつもの様に野宿をしていた。水系の妖精でもあるジャックは、「この川は綺麗だから浴びてくる」と言って颯爽と行っちゃった。

今、一人でいるのは何故かよくない気がする。私の第六感がそう言ってる。


「まだかな…ーーーー!!」


そう思っていた矢先だ。誰かに腕を引っ張られた。しかも、そのまま肩に担がれた。感覚からしてジャックじゃない…!


「だ、誰ですか!?」


頑張って顔を上げたら全く知らない人。人間…なのかな?和服で大きな数珠みたいなのをかけてる。わ、目が合っちゃった…目つき怖い…


「あ、あの…離してください!離してー!いーやー!」

「黙れ餌」

「ご、ご飯?やっぱり私、食べられるの!?嫌です!私、美味しくないです!!」

「大丈夫。生娘はだいたい美味い。ってか活きがいいな。今日はツイてる」

「まだ生きてますもん!離してー!!」


じたばたしてると男の人は軽く笑いながら腕に力を入れた。痛い、痛いよ。身体ちぎれそうだよ。藍晶さんが縫ってくれた隠しポケットに入ってる、桃簾さんがお守り代わりにくれたナイフを取りたいけど、こんな状態じゃ取れないし…絶体絶命だよ…!!


「きゃっ」


そんなことを考えていると無造作に降ろされた。尻餅ついて痛い。前を向くとはまた新しい二人。私と同じくらいの歳っぽい金髪の男の人と茶髪で何処かの制服を着た女の人。この世界に人はいないと思ってたのに、やっぱりいたのかな?


「ごめんねー。とりあえず、危ないもの持ってないか調べさせてね!」

「えっ」


笑顔で言いながら、金髪の人は私を触りまくる。あっ…ナイフ盗られた…


「だめだよー!ナイフとか、こんな危ないの持ってたら!山田が傷ついたら困るの俺らなんだから!」

「あなた達の方が危ないような気が…」

「じゃ、縛るね。痛いよ」

「痛いの!?」


展開がよくわからない中、優しそうな女の人が私の腕をひとまとめに縛る。本当に痛い。容赦ない。ナイフも盗られたし…涙出てきた…目に涙溜まってきたよ…。


「…まだここに来て三日しか経ってないのに」

「ここ?」

「なぁ。もう喰っていいか?」


金髪の人の言葉を遮って和服の人が私の後ろで言う。女の人がゴーサインを出した。和服の人に肩掴まれるやばい、本気でやばい。


「私、本当に美味しくないのに…」

「もう遅ぇよ」

「っ、…ジャック…来て…!」


咄嗟に私は週に一度しか使えない『奥の手』を使ってしまった。小さな声で彼を呼ぶ。和服の人が不思議そうな顔をした。その時だ


「全く、せっかく水浴びしたところなのに」


聞きなれた声が私の耳に入る。目を開けると私の影から体を半分だして、和服の人の腕を掴んでいるジャックがいた。和服の人は「冷たい」と呟いて少し距離をとった。余談だけど、ジャックは霜の妖精だから体温を弄らない限り氷の様に冷たい。その間にジャックは私の影から出てくる。


「ジャックー!怖かったー!食べられるところだったよー!」

「これは奥の手だと言っただろう。もう少し危なくなってから使え。つまらん」

「充分危なかったよ!!」

「俺の主はよく捕まる」


そう言いつつもジャックは固く縛ってある縄を解いてくれた。金髪の人と女の人は驚いた顔をして見ている。


「さぁ、サクラよ。お前を拐って喰おうとしたこいつ等をどうする?凍らせていいか?」

「え、えっと、」

「ねぇ!」


凍らせる満々のジャックにどうしようと困っていたら金髪の人が話しかけてきた。


「さっき、ここに来て三日しかとか言ってたよね?」

「う、うん」

「もしかして、トリップ体質…みたいなものとか?」

「そうだよ!!え、どうして解ったの!?」


金髪の人がずばりと当てた。隣にいるジャックも結構驚いてる。そのまま金髪の人は女の人に嬉しそうに「お友達だよ!」って話しかけた。まだ友達になった覚えはないんだけどなぁ…


「葵ちゃん!同じトリップ体質の子だよ!友達だよ!」

「いや…友達じゃないよ?智雅くん」


女の人…葵ちゃん?って人も同じこと言ってる。そのとおりだ。


「サクラ、この女もトリップ体質だそうだ。仲良くしてもいいと思うぞ?」

「ジャックまで…」

「ってことで山田!この子食べちゃだめだよ!」

「チッ。…別なの捜してくる」


智雅くんって人に言われた山田さん…?は舌打ちして何処かへ行った。この世界って、私たち以外にも人がいるのかな。野宿してたからよく解らないや。


「さっきはごめんね!縛ったりして!」

「怖かったけど、もう何もしないなら…だ、大丈夫だよ…。えっと、私、さくらって名前だよ。彼はジャック」

「俺は智雅!この子は葵ちゃんね!君と同じトリップ体質!で、背が高い人は山田」

「よろしくお願いします…?」


それから私はナイフを返してもらって彼らの事情を聞いた。山田さんって人が人間を食べる神様とか、葵ちゃんっ人がトリップ体質で二人は訳あってついてってるとか。
私も自分のことを話して、ジャックが怪物だってことも話した。もちろん、これでもジャックが私の契約下にいるのも。


「お互い大変だね…」

「うん…」


そんなことを話していたらすっかり葵ちゃんと打ち解けてしまった。智雅くんとジャックもお話してるし。


「そろそろ山田帰って…あ、きた」


振り向くと別の女の子を連れてきた山田さん。え、食べるの?あの、その、


「えっと…ぐぇっ!」


ジャックに頭殴られた。そんな気がする。と思ったら意識が無くなった。






「俺の主は…サクラはまだこういうのに慣れていなくてな。見せたら色々とトラウマになりそうだから気絶させた」

「容赦ないねー」

「これでも甘い方だぞ?お前等とはまた逢えそうな気がする。また逢えたらいいな。…そうだ、ヤマダ。他の人間なら喰ってもいいが、サクラに手をかけたら殺す」


智雅と葵に笑みを浮かべて、山田には若干の殺気を込めてジャックは言うと雑にさくらを担いで葵達と別れた。




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