少年の視界には薄暗い廊下が続いて、周りにはひと一人いない。


「ここ、どこ…?」


かれこれ20分は同じ階をぐるぐる周っている少年、白亜は小さく呟いた。



…おかしいな。イヨ姉ちゃんに着いてって、ツバサさんって人を待ってる時にイヨ姉ちゃん寝ちゃったからボクは建物内を探検してただけなのに。それで、行き止まりの五階まで頑張って来ただけなのに!


「同じ風景だよ…声響くよ…なんで人いないの…」


ここが暗殺部の寮の階だとは知らない白亜は降りる階段を探すが、何かの術が自分を閉じ込めているのか、それとも天性の方向音痴で何故か見つからない。


「あ!…そこの君」

「ボク?」


数分ぶりに聞いた人の声に白亜は勢いよく振り向く。訪れる安堵。そこにいる女性は綺麗な黒髪で、故郷の東洋人を連想させた。


「ちょっとお話いいかな?」

「?」


そう言ってゆっくりと白亜に近づくのは、普段なら誰も来ない五階から足音が響くのが気になった、リャク命令されて様子を見に来たナナリーだった。


「見かけない子だけど、どうしたの?」

「え、えっと、ボクは、その、えっと、とりあえずそれ以上僕に近づかないで!!」

「え?」


イヨには触ることができる様になった白亜だが、まだそれ以外の人間に触ることは出来ない。触ると相手を傷つける力は健在だ。安堵と同時に傷をつけないよう後ずさる。
しかしそれを知らない少年好きのナナリーは内心ショックを受けている。


「ご、ごめんなさい。嫌いとかじゃなくて、その、ボクは人に触っちゃダメだから…」

「?それはどういう…」


「おい」


そんな時に聞こえたもう一つの声。白亜が前を向くと金髪の少年。しかし、纏っている雰囲気が鋭く、「普通とは違う」と、白亜は直感した。


「リャク様?どうして…」

「お前が遅いから来てみたら、なんだこいつは」

「ボク?」


緑色の瞳で睨まれて、白亜は若干驚くもまっすぐとリャクを見つめかえすと舌打ちをされた。


『し、舌打ちされた…。ボク何か悪いコトしたかな…』


「何であんなガキに手間取ってるんだ?殺さないのか?」

「殺されちゃうの!!?ボク、探検してただけなのに…って近づかないで!傷つけちゃうから!」

「…どういうことだ?」


白亜の言葉に興味を持ったリャクは足を止めた。


「そ、そういう能力だから…詳しくはまだ言えないよ。あなたのこと、何も知らないもん。だから、それ以上近づいちゃダメ」

「…………。」


少年っぽい上目遣いだったが、黒い瞳で静かに言った白亜に、リャクは多少の興味を持ったが一旦隠して何処から来たのかを問うことにした。もちろん、一定距離を保って。


「お前は何処から来た?一人か?」

「違うよ!イヨって人と一緒に来た。イヨ姉ちゃん、ここにいるツバサさんって人に会いにきたんだけど、その人まだお仕事中で…二人で待ってたらイヨ姉ちゃん、お昼寝しちゃって、それで…」

「暇で探索してたと」

「うん!…ここ、入っちゃダメだったの?」

「別にいいが大したものはないし、無意味だったな。とにかく…」



「白亜!」

「あっ!」


突然、リャクの言葉を遮る女性の声に白亜は一気に顔を明るくした。栗色の髪を靡かせてリャクとナナリーの横を通り、白亜に近づいたのはイヨだった。
今さっき白亜自身が人に触ったら傷つけると言っていたのに、イヨの胸に自分から飛び込む白亜と、何も変化がないイヨをリャクは観察する。


「探すのに苦労したぞ」

「探検してたら迷っちゃった」

「ったく…。貴方達にご迷惑をかけてしまった。すまない」


振り向いてイヨはリャクとナナリーに誤る。ナナリーが何も話さないリャクに変わって「大丈夫です」と言った。


「イヨ達は気にすることないよ。ナナリーは別として、どうせリャクは興味本位で来ただけだし」

「?よく解らんぞツバサ。というかお前はついてこなくで良かったのに」

「ここでは珍しい能力者だけで、研究部のチビに会わせるのは危険だから」


イヨのあとを追ってきたツバサがリャクを見下ろしながら言うと、りゃくの周りにピリッと静電気の様なモノが一瞬流れた。白亜は状況がよく解らずイヨの後ろから周りを見ていた。するとイヨが前に進み、二人の間に立った。


「ツ、ツバサ!白亜も紹介したいし、外に出て何か美味しいものでも食べよう!」

「え、」

「いいから早く行くぞ!そういえば此処に数量限定のケーキを売っているカフェが…さっさと行かんと食べれないんだ!ほら、白亜も!」


間に立ったかと思えば素早くツバサの腕を掴んでイヨは階段へと向かった。理由は知らないが、ツバサとリャクは犬猿の仲ですれ違うたびに大変なことになるのを知っているイヨは一秒でも早くこの場から離れたかったのだ。


「えっと、ボク、今度はちゃんとお話したいな!ばいばい、ナナリーさんとリャクさん」


笑顔で手を振ってから白亜はイヨについていく。ナナリーが手を振り返すも、リャクはやはり何もしなかった。





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