「やっと体力測定が全学級全クラス終わったけど今年も平均高いな。握力、シャトルラン、3000メートル走、投球…。次からの授業は女子がバスケで男子はサッカーにするか」



昼休み、職員室で生徒に書かせた体力測定のプリントをパラパラめくりながらジャージ姿の紲那は小さく呟く。

能力者、異能者が通う学校でも普通に体育はある。が、やはり全体的に運動神経が高い。まだまだ伸びるであろう、否、着実に伸びている生徒達の姿を眺めるのは長生きをしている紲那にとってはどう伸ばすのか頭を悩ませてしまうほど面白い。



「紲那せんせー、今日やった体力測定のプリント出し忘れてたんで持ってきましたー」

「おっ!やっぱり出し忘れてたか。次から気をつけろよ?」

「はぁーい」


「失礼しました」と礼儀正しく職員室から出る提出し忘れていた生徒に軽く手を振ってふと時計を見ると何かに気づいて紲那はプリントの束を机の上に置いて立ち上がった。


「どうかしたの?」

「昼飯食うの忘れた…つか昼飯買ってなかった」


向かいの机で小テストの丸つけをしていたツバサがペンを置いて紲那に訊くが、実に彼らしい答えに思わず苦笑してしまう。彼自身は真顔で深刻そうだが


「わ、笑うなよ!」

「いや、てっきり食べたのかなって思ってたんだけど…」

「今から購買行ってくるかー…どうせ五時間目は授業ねぇし」

「行ってらっしゃい」





ツバサに気の抜けた返事をして紲那は購買へ向かう。次の時間は授業がないということで、せっかくだから遠回りして別の階段を使い、学校内を周ってから購買に向かっていた紲那だったが、途中で足を止めた。


「…ん?」


窓側を歩いていた紲那の視界に入ったのは中庭の目立たないところで喧嘩をしている生徒達。珍しいことに一対一ではなく複数対複数でやっていた。何かの騒ぎを嗅ぎ付けて離れたところや紲那と同じく、窓から眺めている生徒もいる。


「ありゃ喧嘩か?」

「ですね」

「いいな。青春ってやつだ」

「なに言ってるんですか!?異能と能力使い始めた!あれはヤバくないっすか?先生」

「だよなー…」


個人的に紲那は喧嘩を止めるのはあまり好まない。しかし異能や能力を使うのなら話は別だ。周りに被害が及ぶ前に収束させねばならない。紲那は小さくため息をついて二階から飛び降りそのまま中庭に出た。


「おーい。お前等、いい加減に…」


生徒達に近づこうとしていた紲那の足が止まる。目の前には変に流れる鋭い突風。それは喧嘩をしている生徒達を囲う様にある。これ以上近づいたら軽い傷じゃ済まされない。もちろん、この中にいる生徒もこれに身体が触れたら大変なことになる。


「やれやれ、やっかいな力ですね。異能でしょうか?能力でしょうか?」

「うぉっ!アゲハか…いつの間にいたんだよ」

「今来ました。どうします?」

「簡単だろ」



アゲハが「?」と不思議そうに首を傾げている中、怠そうに突風で折られたらしい長い木の棒を地面から拾う紲那。その行動でアゲハは彼が何をする気が簡単に予測できた。

流れる様に軽く木の棒を振りかざすとそれに似合わない音と風の壁より大きい風圧。それが壁を切り裂いてそのまま真っ直ぐ喧嘩をしている生徒達の顔すれすれを通り過ぎ、校舎の壁に細い線を着けた。


「せ、先生…」


紲那の能力、『斬』は学校内でも有名だ。それを間近に体験した生徒達は壁の傷跡と地面の抉られ様を見、更に紲那から滲み出ていた若干の威圧感を感じて青ざめている。能力を使ったせいで媒介となった木の棒はぼろぼろになって地面に落ちた。


「お前等、やめろって言ってんだろうが。殴る蹴るの喧嘩は良いけどな…力使ったら周りに迷惑掛かるだろ。使うならグラウンドの真ん中でやれ。見てやるから」



『いや、そういう問題じゃ…』と誰でも解るぐらい顔に出ている生徒達の表情に気づかない紲那に代わり、アゲハが笑顔で話しかける。



「紲那…そういう問題じゃないですよ?とにかく、あなた達は放課後に反省文書いてもらいます。四枚ぐらい。文句を一つでも言ったら二枚追加ですからね?」

「えげつねぇな。アゲハ…」






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