『紅だけど、聞こえる?』

「はいッス!無線、バッチリ繋がってるッスよっと!」


突然、無線から聞こえる双子の兄、紅の言葉に蒼は兵を一人斬り伏せながら答えた。
十闇の『移動』で一階に着いた蒼はすぐに兵達と戦闘を始めていた。すばしっこい蒼は銃弾も軽々と避けて、紅と無線越しに会話する。



「奴さんと戦ってるんで簡潔にお願いするッス!」

『もちろん。他の皆の無線もつけっぱなしにしてここからでも状況が解るんだけど…他のところでも異能者と戦闘を開始してるみたい』

「対応が早いッスね!まるで、俺等が何処に着いたのか知ってたみたいッス!」

『あっちにも蒼の透視みたいな異能を持ってる奴がいるのかも。だから対応が早いんだ』

「じゃあ紅の行動もッスか?建物から結構遠くにいるのに…俺でも精々半径二キロぐらいッスから、ソイツ凄いッスね!そいやっ!…で、どうするんスか?見えてるんスよね?紅のコト。紅は大丈夫ッスか?」


部屋にいた兵士を片付けた蒼は刀を鞘に戻して一息着いた。


『大丈夫。来るかなーって思って警戒はしてるんだけど相手も人数少ないのか…また別の理由があるのか、まだ来ないよ』

「良かったッス!」

『行動がバレてるのは仕方ないけど、元々僕は倒してとしか言ってないしバレても別に良いや。あと、相手が軍に雇われただけならなんらかの組織がある筈。その組織が僕等の見た目の特徴を掴んでも、直接的には関係ない。今はね』

「また逢ったらそん時ッスか。紅は頭いいのに物事を豪快に考えててチマチマしたの嫌いな俺等には良いッス―――?」


蒼の明るい声が言葉の最後に不自然に下がり紅は『蒼?』と呼び掛ける。蒼は返事をせずに再び鞘に手をかけた。その音が紅の耳にも入る。


「話は一回おしまいッスね。…新しい奴さんの登場ッス」


蒼が見据える扉の入り口に、刀を背負い朱色髪の見た目は蒼と同じぐらいな青年…ワールが立っていた。


「あんたが革命組織の奴か?」

「はいッス。じゃあそっちは異能者ッスね!あんたも刀を使うんスか!へへっ!」


緊張した雰囲気の中で、蒼がへらりと笑うと、当然ワールは怪訝そうに眉を潜める。


「何が可笑しいんだ?」

「最近、あんたみたいな強そうな奴に逢ってなかったんでつい口がにやけてしまったッス!悪いッスね。でも、」


言葉の途中で蒼が刀を構えると、ワールも背中にかけている刀の柄を握った。


「任務なんで、問答無用ッス!」

「…変な口調でよく喋る奴だな」

「変な口調ってヒドいッスね!――って、わゎ!」


最初に仕掛けたのはワールだった。一気に間合いを積めてから抜刀してそのまま斬りつけるが蒼は下がって避ける。その間に刀を抜いたと同時に今度は自分から攻めた。勢いのままワールの刀に自分の刀を当て、両手に持っていたのを左に持ちかえ、相手の刀の刃で自分の刀を滑らせながら接近し蹴り飛ばそうとした。が、ワールが刀を振り払った。


「ちぇっ、惜しかったッス。まだまだいくッスよ!」


蒼が喋りながら刀を振りかざし、「斬った」と思ったが避けられた。さっきより速いスピードで。自身の能力『透視』を発動させていた蒼はワールにいつの間にか後ろを捕られたのを視て咄嗟に刃で防ぐがさっきよりワールの刀が重く感じた。


(…そういえばさっきも速くなったッスね。こいつの異能ッスかね?)


重くなった刀を弾き、速くなったワールの動きについていきながら蒼は考える。
蒼の考えはだいたい当たっていて、ワールはついさっき自身の上昇能力を発動させていた。これにより、ワールは身体能力も、自分の武器の性能を上げている状態だ。


「なんか、あんたの動きがよくなった気がするッス!異能とか使ってるんスか?」

「敵に教えるわけねぇだろうが」

「教えてくださいッスよーけちー」

「うぜぇ!!」


ワールの声にびくっと驚きつつも蒼も『じゃあ俺も!』と、部屋全体に使っていた透視をワールだけに向けて使った。これでワールを今まで以上に追尾出来るし細かな動きも解る。少し防戦気味だったが、これによりワールに追い付ける様になって動きはほぼ互角になった。


「あれ?」

「?」


ワールが振りかざした刀を止めながら蒼はすっとんきょうな声で呟く。透視で細かく視ていたせいで、彼の服のポケットにメモリーカードみたいな物が入っているのを見つけた。


一旦、間合いをとって蒼は問う。


「あんたのポケットん中、メモリーカードみたいな物が入ってるッスね?」

「それがどうした」

「情報が詰まっている物をポケットに入れたまま任務をするなんて、変ッス。俺なら任務が開始してから得た物だとしても敵と対峙する前に安全な場所に置いとくッスよ!それに、あんたからは殺気があまり感じないッス。今考えると、他の階ではとっくに俺の味方とあんたの奴等が戦ってるのにあんたは来るのが遅すぎたッス。…何か、別なコトをしてたッスね?もしかしたら、そっちの方が本命とか」


やはり頭が良い兄と血が繋がっているのか、鋭く蒼が見抜くとワールは意表を着かれたのか目を二、三回ぱちくりさせてから刀を仕舞った。


「正解。諜報が俺等の本命だ。だけど依頼されたから指揮官も守らねぇとだろ?信用無くすと組織に悪いし、上司に説教されるかもだしな。でも本命が出来れば最悪は免れる」

「情報収集が本命ッスか。ならもう俺等は戦わなくていいッスね」

「は?」

「今、様子が気になって建物全体を視たんスけど俺の仲間が指揮官殺っちゃったッス。説教されたらごめんなさいッスね!」


蒼も刀を仕舞って言うとワールもその呑気さに苦笑。そして蒼は「任務で対峙せずに、また何かの縁でまた逢えたらそん時はちゃんと手合わせ願いたいッス!」と笑顔で言った。





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