放課後、蒼は売店に行こうとしていると同じくのんびりと売店に向かっていた鈴芽と偶然遇って、目的地まで一緒に行くことにした。


「…蒼、なんか沈んでるな。いつものテンションはどうした?」

「よく訊いてくれたッス!さすが鈴芽!それがッスね、今、是非とも我が部活に入部させたい奴がいるんスよ」


柄にもなくはぁ…とため息をつく蒼。剣道部の蒼は、いつも竹刀を持ち歩いていた。


「ソラか?アイツ、剣道に興味あるって言ってたな。たまに行ってんだろ?」

「ソラは別に良いんスよ。なんか、忙しそうだし…」

「忙しそうか…?アイツ」

「それよりも…あっ!!」


突然、廊下に響くぐらいの大声で叫ぶ蒼。思わず鈴芽が耳を塞いでしまった。


「見つけたッスよー!鈴芽!ちょっと俺の鞄持っててッス!すぐ戻ってくるッスから!!頼むッス!」

「はぁ?あ、蒼!!って…相変わらず早いなー…」


鈴芽が前を向く頃には既に蒼は彼の視界から消えていた。どうしようかと鈴芽は蒼の鞄を見る。






・・・・・・・・・・・




「見つけたッス見つけたッス!」


全速力で三階の廊下を走りながら蒼は嬉々としながら窓の外を見る。そこには朱色っぽい髪色で、背中に木刀を背負っている生徒。もう少しで学校を出てしまいそうだ。


「仕方ないッスね!」


キュッと音が発つぐらいの急停止して、蒼は学校を入って玄関のすぐ傍にある一階から吹き抜けの階段の手すりに手をかけて、そのまま落ちた。普通の人間や、異能者なら運が良くても絶対足を痛めてしまう高さでも、生まれつき身体能力が高い能力者には関係ない。周りがぽかんとしてる中、見事に着地するとそのまま玄関を抜けて朱色の髪の彼に追い付いた。



「待つッスよ、ワール!」

「げっ」


清々しい笑顔と明るい声で蒼は朱色の髪の生徒…ワールを後ろから呼び止めるが、ワールが逆になんともばつが悪そうな顔をした。


「さぁ!今日こそ剣道部に入るッスよ!」

「入らねぇよ!新学期始まってから何回も言ってるだろうが!」

「何でッスかー!その背中に背負っている木刀は、まさに『俺、いつか剣道部に入るんだ』って主張してるじゃないッスか!入ろうッスよ剣道部!」

「主張してねぇよ。護身用みたいなもんだ!」

「何がいけねぇんスか。むさ苦しい防具がいけねぇんスか。でも慣れれば平気ッスよ!さぁ入ろうッス!入ろうッスよー」


「あのな…」


どこか捨てられた子犬を連想させる蒼の表情にワールは毎回気まずくなり目線を逸らす。ついでに蒼の右手に持たれている部活勧誘ポスターからも目を逸らしていた。


「入ろうッスよー!ワール!…って痛ぁ!!」

「ったく…」


ゴスッという鈍い音が、ワールの耳に入った。何事かと思い再び蒼の方を見れば頭を押さえてしゃがんでいる彼と、隣には背が高い緑髪の男。その派手な髪色でよく噂されている奴だとすぐ解った。


「俺の鞄で俺の頭を殴るとかなにするんスか鈴芽!!」

「遅いと思って来たらなんか相手困ってる様に見えたから…言葉で静止させようとしても蒼は止まらねぇだろ?」

「むー…痛いッス…でもそうッスね。度が過ぎたッス。ワール、ごめんなさいッス」

「あ、いや…解ったなら別に…」

「なら入部を「しねぇよ!!」


さっきの反省した感じは何処へやら。すぐに明るい表情に戻った蒼は、最終的に鈴芽にまた頭を軽く殴られてから引きずられて回収された。その時にも「俺は諦めねぇッスからねー!入部考えてくださいッスー!」と、しつこく勧誘していた。


「ワール、どうした?」


少し遅れてアイがやってくると、ワールはため息をつく。ため息の原因をなんとなくアイも察した。




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