建物の最上階に着いたイヨの目の前には当然、軍兵がいた。どうやら廊下に飛ばされたらしい。まだ十闇の移動では複数を別々なところに飛ばす場合、明確な場所は解らない。突然現れた女性に軍兵達は唖然としている。


「廊下に飛ばされたか…丁度良いな。一気に始末出来る」


しかしイヨがコートの裏に隠している銃を一挺構え、足元から棘を出すと、まわりの空気と視線が固くなった。軍兵も武器を構える。


「革命開始だ」


そう呟くとタイミングよく、他のメンバーも配置に着いて始めたのかサイレンが鳴った。









・・・・・・・・・・





サイレンが鳴ってすぐに待機室から最上階にソラは向かった。数分して着くと、廊下には一人の女性がいた。周りには、たくさんの軍兵が倒れていて、不自然に無数の棘が生えていた。


「…?軍服は着てないな。もしかして、雇われた者か?」


「まぁね。そっちは革命組織ってやつ?」

「あぁ」

「…全部この短時間にやったの?」

「面倒くさいから能力を使ってやった。どうやらこの階には指揮官はいないらしい。場所を知っているか?」

「雇われたから教えられないな」

「そうか。仕方ない」


会話の途中でイヨは銃を発砲した。しかしソラは自分の異能、良眼能力で糸も容易く回避し、イヨに詰め寄り持っていた銃で殴った。…が、ギリギリのところで振りかざした腕が止まった。腕には、若干の痛みが走り微動だに動かない。ソラが目線を配ると、イヨの足元から伸びた棘がソラの後ろに回って腕を拘束していた。

イヨは距離をとってソラの棘を解くと直ぐ様今度はソラが銃を撃つが、イヨも避けて詰め寄ると蹴りあげる。


「む、避けたか」

「目は良い方だからね」


それからもイヨは何処か楽しむ様に攻撃をするが、ソラの眼に全て避けられてしまう。かといって、普通の人間より長く生き、戦い続けているイヨにソラの攻撃が当たるわけもなくどっちつかずの状態が暫く続いた。


『これではらちが明かないな』


いつの間にか片手に短剣を持っていたソラが、それを飛ばしたのを顔すれすれで避けながらイヨは胸の中で呟く。そしてさりげなく、ソラの斜め後ろにある部屋の扉が視界に入った。


「悪いが、時間が少ないんだ」

「――――あ、」


ソラに近づき銃を近距離で撃つ真似を一瞬だけして、イヨはソラの横を駆けた。そして棘を束にして視界に入っていた扉を壊すとそのまま部屋をを抜けて窓に直行、再び棘で窓を割ると縁に足をかけた。


「…まさか」


追い付いたソラに、イヨは振り向いて小さく微笑してから飛び降りる。ガシャンッと再び窓が割れた音がするのが耳に入り、ソラがイヨが飛び降りた窓から下を覗くと、下の階の窓が割れていた。


「器用だなぁ。急ぐか」




急ぐか、と言ってもあまりやる気がなさそうに何処か感心しつつ下の階へ向かった。










下の階に降りるとやはり軍兵は既に片付いており、静寂が広がっていたがさっきの比ではないぐらいの棘で覆われていた。急いでイヨが入った部屋に向かうとそこにはイヨと、椅子に座ったまま頭を撃ち抜かれた依頼主の指揮官。ふぅ、とソラはため息をつく。




「何だ。もう良いのか?」

「依頼主が殺されたならもうする意味がないじゃん」

「そうか…まぁお前、元からやる気があまりなかっただろう?私もお前を殺す気はなかった」

「やっぱりバレたか。能力者って不思議だね。あの数を一瞬でやるなんて」

「私の棘は足元以外からも出せる。一人ずつ撃ってたら時間が掛かるしな。運良くこの階に指揮官がいて早く事が進んだ。…それよりも、私はお前に興味がある」

「何で?」

「十代半ばでそんな眼をしている奴はなかなかいないからな」

「………………」


そう言って真っ直ぐとソラの何も通さない青い瞳を澄んだオレンジ色の瞳で見つめるが、ソラの目付きが悪いせいで睨んでる様にも窺えたが、イヨは気にしないで「さて、」と話を変えた。



「私は下の階に行ってまだ戦っているであろう奴等のところに行くが、お前はどうする?」

「オレもそうするつもり」



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