召喚





エルーと同じぐらいドラゴンから離れて僕は一枚、紙を取り出した。これは召喚用の陣を予め書いといたモノで、陣を書く手間が省ける超便利品。だけどとても高価でたった一枚で四日分の生活費にあたる額だ。だから使い時は慎重に。そして今がその時だ。

陣が書いてある紙を地面に置いて人差し指で押すと紙が消えて地面に陣がそっくりそのまま描かれた。


「よし成功。次は…」


次に内ポケットから取り出したのは透明なプラスチック製、長さ五センチで、中に粉が入っている試験管。中身が漏れない様にきっちりはめていたコルクを外して陣の中にちりばめる。これは媒介を粉末にしたモノで、さっき使ったクリアストーン、異界でしか採れない鳴り草など他にも数種が決められた比率で入っているモノ。これだけでも出費が半端ない。

最後の詠唱は召喚士によって皆違う。個人差があり、基本となる言葉はあるがそれ以外に追加したりしていかに持っていかれる精神力を最小限かつ詠唱を短縮出来るか考えなくてはいけない。


粉を陣にちりばめてから数秒後、眩しく陣が光った。直ぐ様僕は陣の真ん中に立って詠唱に入る。


「汝、密林の主。処の生物、頂点に立つ者。錆びる事のない銀の爪を持つ孤高なる者。我の前にその身を映し、我を乗せよ。―――『黒山猫』」



爪先でトンッと陣を踏み直すと黒い光から出てくる獣。僕が陣の中で詠唱したのには意味がある。出てきたと同時に黒山猫に乗るためだ。


「久しぶり、黒山猫。さっきは技を貸してくれてありがとう」


普通の猫と比べたら何倍も大きく、ふさふさして気持ち良い毛並み。このもふもふで昼寝したいなって毎回思う。どんなに大きくても猫なこの獣の喉を撫でてあげるとぐるるって鳴きながら目を細めた。あぁ可愛いなぁ…『コピー』だけど




「さて…クラトス一人に任せられないし、行くよ、黒山猫!」




僕に返事をする様に黒山猫は再びぐるると鳴く。そして四つ足で大きな音を発たせながら勢いよく僕をアンデットドラゴンのところに連れて行く。視界の端にはエルーがタイミングを見計らいながら見ていた。





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テーマ「人外ファンタジー」
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