「ではではー!セレス、クラトス、エルーの試験前祝いでカンパーイ!」


クランのボスである三沢の呑気な声で前祝いが始まった。とりあえず、僕もエルーもクラトスも乾杯とか言っちゃって、ミコトは当然こういうの大好きだからデカイ声で乾杯って言っちゃったし、そんな兄とは真逆のアーシェと大人の鵺は無言でただコップを少し上げただけだった。


「でも食べ過ぎるなよー明日の試験に支障が出るからな!程よく食べ過ぎろ!」

「キリッとした顔でワケわかんないこと言わないでよ、三沢」


三沢の斜め前の椅子に座ってたせいかついツッコミを入れてしまった僕に三沢は「そりゃそうだ」と爽やかな笑顔で返事を返してきたからため息が出る。三沢は何処か抜けてるけどクランの皆からの信頼が厚い。いや、抜けてるからなのか僕にはよく解らないけど、うん、三ヶ月前に入った僕も三沢を信頼してると思う。強いし


「ところで三人、クランカードは持ってるか?」


「もちろん」

「肌身離さず」

「じゃ、じゃないと、洞窟や空洞に入れません…まだアマチュアなので地下三階までしか入れませんけど…」


そう言ってエルーは服のポケットから掌サイズのカードを出した。僕も本当に持ってたかな?とポケットを捜すとあった。表面にはこの国の紋章と右下に黒い星マークが特徴のシルフカード。正確にはまだ黒い星マークだからアマチュアシルフカードだ。誰でも国立図書館で登録さえすれば貰える。

僕ら三人はこのアマチュアシルフカードを明日明後日と開かれる大会染みた試験に合格してマスターシルフカードにしなくてはならない。


「そ、これは確認だがそれはアマチュアシルフの奴等が持つカード。異界の洞窟、その名残りの空洞の地下三階まで自由に行動、物を採取出来る。…が、地下四階から下は地下三階とは比にならないぐらい危険な場所が殆どだから地下四階以降に入るためには年一度、タチーニャで行われる試験に合格してマスターシルフにならなくちゃいけねぇんだよな」


珍しく三沢が長々と説明してくれた。
グラン大陸の中で異界に繋がる洞窟やその名残の空洞があるのはエサリナ無統治自由国だけ。地下三階までははっきり言って稼ぎは少ないけど地下四階以降は凄い稼げるらしいし、クランに入る者、もっと稼ぎたい者、もっと強い異界の生物と戦いたい者、その理由は色々だけどアマチュアシルフの人達の殆どがマスターシルフになるため試験に出る。それはもうエサリナのビッグイベント的なやつで誰も顔を知らない引きこもりの王様も魔人形をフル活動させタチーニャにある国立公園のド真ん中にスクリーンやら観客席やらをたくさん用意して盛大にやってくれる。もちろん観客のために食べ物や飲み物まで、サービスもしてくれる。しかも無料。


「このカード不思議だよね。アマチュアシルフが地下四階に入ろうとするとカードが反応して所持者を殺すんでしょ?」

「それぐらい危険だっつーことさ。そのカードはこの国唯一のルールだ。破ったら死刑もんってな」

「ま、まだ未熟者ですが魔術士の私としてもこのカードの仕組みが凄い気になります…」

「でもさー歴史に残る魔術士達でもこのカードの仕組み解ってないんだろ?仕組み解明したらスゲーことになるな!」

「期待してるよ、エルー」


「え!?えと…あの…私、そんな…」


久々にクラトスと一緒にエルーをからかってみたら予想通り、エルーは困った顔をする。この困った顔が個人的に可愛くて好きだな。微笑ましくなる。


「エルーを困らせんなよ〜」


そう言って、三沢が大きな手でエルーの肩をぽんっと優しく叩いた。あ、三沢、それ不意討ち。


「あ、あぅ…手…っ!!手が…!」

「ん?何か顔赤くなってんぞ、エルー?大丈夫か?」


ずいっと顔を覗き込んだ三沢はエルーを見つめた。それでエルーは顔を真っ赤にさせてショートを起こした様に固まった。三沢、それも不意討ちだ。やめろ。


「だだだだ大丈夫です三沢!びっくりしただけです!至って健康!い、至って、れ、冷静なのですよ!?」

「そ、そうか…無理すんなよ?」

「は、はい…!」

「エルーは純情だからね」


突然アーシェが話に入ってきた。無表情ながらもどこか面白そうにしている。
そう、エルーは三沢が大好きらしい。というか大好きだ。何故か僕やクラトスにそのことについて相談することも多々ある。その三沢に触られたり守られたりした時はエルーの頭は即ショート。見ていて面白いんだよねコレが。


そんな和やかな雰囲気の中空気読まないミコトが「ケーキまだぁ?」と言った。本当、このクランは個性的な人達がいて飽きない。…まぁそのせいでこの中で一番常識人な僕が大変なんだけどね。



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