通常コラボ小説 | ナノ


※死ネタ
※タイトル通りバットエンドものでイヨ死にます。








「…ごめんなさい、ごめんなさい」


ツバサと自分以外誰も居ない静かな彼の書斎でぽろぽろと、涙を流して子供の様に泣いているイヨ…否、彼女ではない存在。

ツバサはただそれを見ていることしか出来なかった。






―――――――――

数時間前





「十闇、お願いがあるんだ」

「…ん、解ってるよ」


何処か弱々しく言うイヨに隣に座っていた十闇は立ち上がり、彼女の手を握ってツバサの書斎に『移動』した。



―――――――――




シュッと音を発てて突然ツバサの書斎に着いたイヨにツバサは『また入り口から入って来なかったのか』と苦笑しながらすぐ警報を切って前を向くとそこにはイヨだけではなく十闇もいた。心の声が聴こえるから建物へは絶対入らないと言っていた十闇が何故、ここに。



「ここは、意外と静かだったね。…イヨ、大丈夫?」

「あぁ、ありがとう。十闇」


ストンッと力なくソファーに座ったイヨは十闇の瞳を数秒見つめる。それから十闇はツバサの方を見て、「オレは廊下にいるから」と言って部屋を出た。


「…どうしたの?イヨ」


イヨの隣に座ってどう見ても様子がおかしい彼女の柔らかい髪を撫でて訊く

しかしなんとなく、彼も察していた。いつか言っていた記憶が浮き沈みするという言葉がツバサの頭によぎる。


「ツバサ、最近、だめなんだ。あなたのことも、忘れそうになる。私は、もう、解らないんだ、こわい、こわいの」

「…大丈夫だよ」

「解らないんだ、思い出せないんだ。あなた以外のひと、ここで、誰か知り合いがたくさんいた筈なのに、思い出せない。ツバサと、リィンと、紲那と、兄貴と、十闇は、まだ解る。でもそれ以外のひと達…みんな、とても大切な、人達なのに、私…、わたしは、」


震えた声で呟きながら、イヨは自分からツバサに抱きついた。声と同じく身体も震えている。泣いているのか覗こうとしても強く彼を抱き締めていて何も見えない。


「ごめんなさい、ごめんなさい。わたしは…あなたともう、いられない。わたしは消えてしまう。次ここにいるわたしは、わたしじゃない。」

「―――――」


あまりに唐突。
消える。つまり死ぬということ。
しかし死ぬならイヨはただ『死ぬ』と言うだろう。なのに何故、『消える』という言葉を使ったのか。
何処にもいなくなってしまうと彼女は言いたいのか。ツバサが訊きたくても彼女は応えないし、訊こうとしたら彼自身が咳をすることになった。



「ツバサ」

「なに?」

「わたしは、ツバサが好き、大好き、愛してる。ずっと、ずっと、さよならしても。」

「あぁ」

「どうか彼女を責めないで。彼女は悪くないの、リィンは悪くないの。だれよりも自分が解らない、わたしが悪いんだ」

「うん。責めない。…でもイヨも悪くないよ」


ツバサの言葉のあと、イヨが顔をあげた。
多分記憶が混乱して口調があやふやになっていたのだろう。それでも顔をあげたイヨはいつもと同じ、凛とした表情で痛いぐらい澄んだ何かを見透かす様なオレンジ色の瞳でツバサを見つめた。泣いてはいなかった。


「…どんなに見つめても、隣にいても、結局、あなたのことは全く解らなかった」


ただ話しているだけなのに、イヨの視界がだんだん暗くなる。真正面にいるツバサさえも見辛くなってきた。寒気もしてきた。今までの非ではないぐらい眠くなってきた。それでも彼女は話し続ける。今、伝えたいことを伝えるために


「…でも、ありがとう。わたしは、好き、好き、ずっと、ずっと、消えても、ずっと、大好き、愛してる。あなたのことを、わた…しは、ツ、バサを」


さらっと、イヨは彼の鮮やかな金髪を撫でた。でももうイヨの視界はほとんど見えず、あと一言言いたいのに言えなくて、自分では、さいごに笑みを浮かべたつもりだったがどうだったろうとさいごの刹那に考えてしまう。


そして髪を撫でてからイヨはそのまま後ろに倒れ、ソファーを背にして眠ってしまった。



「……イヨ?また寝ちゃった?起きないの?」


呼んでも彼女は応えない。

次、目を覚ました彼女は彼女ではないことを、ツバサはなんとなく悟っていた。






――――――――



「…イヨはずっと、アンタのことをずっと大事に思ってた。出会った時からずっと。他の人達も。アンタとの初めての感情に戸惑いながらもね」


そして冒頭に戻る。
起きた彼女はもうイヨではなくリィンというイヨとは全く違う子供の様な、よく解らない性格のヒトだった。

あまり細かくは話してくれなかったが、リィンによるとこの身体の本当の宿主は自分でイヨはあとから入ってきたらしい。鈴芽の二重人格とは違う。異質な何か。イヨが異質だったのか、受け入れたリィンが異質だったのかはリィンとイヨ以外誰にも解らない。


「もう何処にもイヨはいないよ。当然オレはイヨの代わりになれない」

「…解ってるよ」


目の前に彼女がいるのに彼女はいない

ツバサは、さっきイヨが撫でたところを自分で触ってみた。


彼女の温もりはもう消えている。






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