天気は雨。 仕事を抜け出して街に来たツバサはあまり人気がない、今日は雨だから人一人いない裏路地を歩いていた。 「――――――――?」 傘をさして歩いていると、突然雨の中に混じって聞こえる銃声音。消音機能がそなわっているのかその音は本当に微かにしか聞こえなかったし、もしかしたら気のせいかもしれない。普通の人間なら気づかない小さな小さな音だった。 音の方向は丁度今、ツバサが素通りしたレンガで作られた廃墟の建物。好奇心でツバサは傘を閉じてその廃墟のところどころ錆びている鉄製の階段を登る。気づかれない様に足音と自分の気配を消して そして階段を登りきったと同時にまた小さな銃声音が聞こえた。それと同時にドサリ、と何かが倒れる音。ツバサは明らかに誰かが誰かを殺している場面に出くわしてしまった。 バレるかもしれないがまたまた好奇心でツバサはドアの隙間から中を覗く。もしかしたら殺された人物が自分の組織の者かもしれないし、部下に渡すはずだった任務の対象者かもしれない。それだったら色々と始末が大変だ。 ドアの隙間から中を覗く。中は雨のせいで暗かったが相手を殺した誰かが既にこっちに気づいていて銃を自分の方に向けていたのは解った。ツバサは自然に隠し持っていた自分の銃に手を置く。 だけどそれは必要なかった。 「誰だ?」 相手の声はよく聞く声。凛とした低めの女性―――イヨだった。 「そう構えないでよ。偶然だね」 気配は完全に消した筈なんだけど、心の中で呟きながらツバサは言った。 「!!ツバサか」 キィッと古びたドアを開けて部屋中へ入ると仕事用の黒いロングコートを着て、返り血を顔に着けていたイヨは一瞬驚きながら銃を下げる。 「『仕事中』だった?」 血の臭いが酷い部屋の中、イヨの周りで倒れている死体達を見ながらいつもと同じ調子で平然とツバサか彼女に問う。 「あぁ」 突然、イヨはくるっと後ろに振り向き二発撃つ。パパンッと小さな音が発せられて今まで物陰に隠れて、姿を現さなかった刀を持っていた男が声も出さずに心臓と頭から血を噴き出して死んだ。 「今終わった。」 「みたいだね」 そして再び振り向きイヨは顔の右半分にべっとりと返り血を着けながら淡々と返事を返した。返り血が目に入ったのか右目は閉じている。 それを見て、ツバサはいつも自分の前ではある意味で女の子らしいのにやっぱりイヨも裏側で生きている住人なんだな。と改めて実感した。 「凄いね、心臓と頭に一発ずつ。即死だ」 「帰る。任務は終わったからな。悪いがお前と話している暇はない」 「後始末はしなくて良いの?」 「私達の場合したら意味がない。それに銃弾は使ってないしな。能力の棘を小さくしたのを使った」 「そっか」 じゃあな、と言って顔の右半分に着いた返り血を服の袖で拭おうとイヨは顔を拭こうとした。 その腕をツバサは待ってと言って掴む。 「何だ。任務の邪魔するならツバサであろうとも撃つぞ」 「違うって。血拭かせてよ」 「自分で出来る。――って、やめろ!」 「はいはいじっとしてねー」 「ゃ、ちょ、ツバサ!」 当然イヨの制止を聞くわけもなく、ツバサはハンカチを取り出して彼女の返り血が着いたところを拭き始めた。抵抗しながら後ろに下がっていたイヨだがいつの間にか壁に背中があたって逃げようにも逃げられない 「やめろって!ハンカチ汚れ…というか私に触るな!!」 「久々に聞いたなーその言葉。付き合う前によく言われたっけ?」 「今だって言ってい――――っ!?」 いきなりツバサが返り血が着いているイヨの閉じている右目…つまり瞼を舐めた。 言葉を中断して、正直言って気持ち悪い感触にイヨはピクッと小さく体を震わせる。 「ツバ、サ…汚いからやめ…っ」 「汚いからだよ。血着いてるイヨも綺麗だけど他の奴の体液着いてるとか耐えられない」 「――――やぁ、や…、めろ!」 瞼を舐められてから耳元で囁く様に言われ、更に耳を甘噛されたイヨは顔を真っ赤にしながらもツバサを突き放すとまだ血が着いているところを自分でさっさと拭いてしまった。 「拭いてあげるって言ったのに」 「あ、あんな拭き方あるかアホ!紅に連絡しなくてはいけないし…帰るっ」 「外雨だけどどうするの?」 「十闇の能力で帰る。」 「仕事帰りによくうちの組織に寄るのに今日は寄らないんだ」 「…今日はいつもより汚れたからな。それにお前、どうせまた仕事サボったんだろう?さっさと帰って仕事しろ」 そう言って、イヨは血の臭いが酷い部屋で十闇に連絡をするため携帯を開いた。 ―――――――――― オチナンテないヨ!! こう…妄想が弾けちゃったんだな!私。 ちなみに今回イヨがやっていた任務は人拐いの組織潰しです。 ツバサくんに細かいコトを言わないのがイヨ。 |