言霊遊び (1/6) 「さて、と…まず一つ訊くわよ」 朝なせいか誰もいない道路でピリッとした空気の中、狛犬の兄妹に向かっていつもと同じような声色で心乃原が訊ねる。 「何だ。」 「あなた達、狛犬なら仕えている神社がある筈でしょう?その神社が灰々を狙っているってことで良いのかしら」 「「否」」 「?」 口を揃えて同時に言う狛犬の言葉に心乃原は眉を潜ませる。 「私達が仕えて神社は朽ちた。」 「仕える存在がいなくなり、消える筈だった俺等だったがある御方に拾われ命を繋いだ」 「今はその御方が私達の主」 「そして主の命令に従い俺等は灰々壬里を捕まえにきた」 「主の命令は絶対。それが狛犬」 狛犬達の無表情で淡々とした言葉を聞いて心乃原は「ふーん」と呟き、再び狛犬達に向き直った。 「…なーる程、だから言霊で灰々を狙ったのね。言葉に武器や力は必要ない。小柄だったり私の様な女でも気持ちさえあれば人一人簡単に殺せるもの。」 「わかったのなら灰々壬里をこちらへ渡せ」 「嫌よ。なので私は…」 ニヤリと心乃原の口が緩む。 それはまるで子供の様な、無邪気で何かを企んでいる様な笑みで狛犬達が「しまった!」と口を揃えて言った。 それと同時に氷月は灰々を引っ張り後ろに下がる。 「この…っ 『領域展… 【正式な言霊遊びを宣言】 【今から領域を決める!】 心乃原の声が狛犬の声をかき消し、浮かび上がりかけていた狛犬の方の陣を消した。 それを狛犬二人は悔しそうに心乃原を見る。 その心乃原の回りには何故か領域展開の時にでる陣が二重に重なっていた。 【故に領域外での言霊は認めない。】 心乃原は一方的に言霊を使い続ける。 それを後ろから見て、氷月は小さく呟いた 「…あの狛犬達、言霊を使い始めてから日が浅いな。ルールを完全に把握していない。だから先制を盗られた。」 「盗られたとは?」 「言霊遊びだ。あの狛犬達は言霊を使う理由を心乃原に言った。それを心乃原は拒否した。だから心乃原に優先順位が回って先制が心乃原に移ったんだ」 「つまり、心乃原さんはあの狛犬達をはめた?」 「そうだ。理由さえ言わなければ先制は狛犬達で俺等と心乃原達を遮断する籠を作らずに言霊を使えたのにな」 「籠…?」 氷月の説明ともにどんどん話しは進んでいく。いつの間にか心乃原の回りの陣は二重から四重に 【籠の範囲は横50高さ60。籠からはみ出した言霊、籠の外で発動した言霊は全て無効とする】 四重の言霊が心乃原の元から離れ、心乃原と狛犬達の回りに薄いガラスの様な壁が現れて三人を囲む。氷月と灰々は籠の外にいた。 「よし、これで壁は完成ね。 あなた達は私に勝たない限り灰々を捕まえられないわ」 「確かに、致し方ない」 「だが女、兵はどうした?お前一人でやるとでも?」 「えぇそうよ。あなた達には必要ないわ。」 「私が兵を使えば一発で終わるもの」とつけたし狛犬達を挑発すると無表情だった狛犬達の目付きが鋭くなった。つまり易々と挑発にのってしまったということ それを見て心乃原かクスッとさっきとは違う笑みを浮かべながらやっぱりまだ子供ね、と胸の中で呟いた。 「さぁ、ちゃっちゃと始めましょう?あなた達は一体どちらが『兵』でどちらが『奏者』かしら?」 |