水面 (6/6) ふよふよ僕の周りを浮きながら、この人は言う。 「貴方は、本当は死ぬ筈だった僕を助けてくれたってこと?」 「そうだね」 「何で?貴方はそこまでして僕に何をさせたいの?」 「…鋭いね。僕は君を利用している。まぁ君には僕が転生した子として生きていてほしいけど………!!」 「?」 よく喋る僕の前世らしい人が話をやめて焦った様に急いで上を見る。そして暫くしてからゆっくりとこっちに身体を向けた。表情はもう焦っていなかったけど真剣な赴きだ。 「時間が無い。もう君は帰らなくてはならない。君はこれから色々なことに巻き込まれ、力に目覚めるだろう。力については心乃原さんが知っている。それを使うか否かは君に任せよう」 「よく解らないよ、そんなこと」 「これだけは覚えていて。確かに君は僕の転生した子供だ。だけど君は僕じゃない。君は君の意思で生きなさい。また逢えたら逢おうね」 「ま、…………」 にこり、とあの人…バティンって人は微笑む。待ってよ、まだ訊きたいことがある…のに、何で消えるの?何で、僕は…眠たく…ちょ、今日は寝すぎだろ、僕。 「あ、起きた!心乃原姐さん!」 「やっとね…一時間ギリギリよ」 「………?」 目を開けると目の前にユウと心乃原。 あれ…僕、水の中にいてバティンって人と話していたのに 「河から浮かんで来たのよ。バティンと話せたのね。こちら側の存在を河は拒まない」 「知ってるの…?」 僕の言いたいことが解っている様に心乃原は言った。バティンと話したのは夢だと思ったけど、本当みたいだ。まだあの人の雰囲気が変な話だけど僕の中にある様な気がした。 「聞いたでしょう?バティンから。200年前、私は彼から頼まれたのよ。『200年後に新しく生まれる僕を救ってくれないか』ってね」 「まさかアンタがバティンさんの転生した存在だったとは…全然解らなかったぜ!」 「ユウも役職を辞めた悪魔?」 「あぁ。パズズってやつな。冥界の悪霊をまとめてた」 「…へぇ」 ついさっきまで悪魔とか三途の川とか、非現実的なことなんかあまり信じていなかったのにそれを受け入れている僕がいる。これもバティンに逢った影響なのかな 「あー!!」 「……?」 突然聞こえた大きな声に後ろを振り向くと、そこには顔が子供っぽい少年。…あれ、僕はこの人を知っている?ひどくひどく懐かしい。 そう思っていたらその少年はこっちにやってきた。そしてチリンチリンと服についた鈴を鳴らせながら僕に抱きつく。 「!?」 「…やっと逢えたよぅ!君がバティンじゃないのは解ってるよ!でも嬉しい!だから言わせて!! おかえり、バティン。はじめまして、雪瀬!」 見た目通りに、つまり子供らしくこの人は僕に抱きつきながら泣きじゃくる。そうか、僕はこの人を知っている。 僕の中にいるであろうバティンも逢えて嬉しいのかな。なんかそんな気持ちが伝わってくる。きっとこの人はバティンの知り合いだ。 でも僕もひどく懐かしい。ずっと逢いたかった人の様な気がする。だから僕も抱きしめ返す。 「ただいま、ルシファー」 自然と僕の口から出された言葉に、僕はもう、何も疑問は浮かばなかった。 了。 |