水面 (1/6) 「どうした、来ないのか?」 車が完全に消え、辺りに静寂が広がる中、氷月が呟いた。その言葉に黒枝はまた刀を握る力が強くなる。 「行きたくてもなかなかタイミングが掴めないのですよ。それにその木刀はただの木刀ではない。迂闊に動けません」 「…あぁ、適当に選んだった。確か、イザナギノミコトの佩剣で柄の長さが拳十個分の長剣の神剣、『十拳剣』を模した木刀だ。ほんの少しだがオリジナルの十拳剣の力は流れている」 「イザナギノミコト様とお知り合いなのですか、全くお顔が広いことですね。当然、オリジナルも持っているのでしょう?」 「心乃原程ではないが掛け持ちで役職に就いていた期間が長かったからな。自然と知り合いも多くなる。…来ないのなら、こっちから行くぞ」 「―――――!!」 木刀を、右手から左手に持ちかえ、勢いよく一歩踏み出した。と、思いきやいつの間にか黒枝の目の前。氷月は木刀高く振りかざしそのまま降ろす。部隊長だけあってなんとか避けたが頬をかすった。 部隊長への直接攻撃に部下の見習い悪魔達も武器を構えた。 そしてそれが、乱闘への合図へとなる。 『大丈夫でしょうか…氷月さん』 その地面が割れる程の乱闘に後ろに一人残された心乃原…否、心乃原に化けた灰々が呟いた。 |