目が見えない人の願い[後] (5/6) 本当にそれは切なかった。 でも桜と人間、時間の差、それを全部ひっくるめて混ぜ合わせて作った壁がお客様と桜の間に高く隔たれていたとしてもこの二人は簡単と壊す。 実際、僕らの目の前にそれが起きている お客様が桜に近づいた時、桜はどうやって出したのかは解らないけど残りの力を振り絞って人の姿になった。 それと同時に心乃原さんが小さな声で詩の様なものを歌うように言った。本当に小さな声だったからどんな詩かは聞き取れなかった。 もしかして、言霊の様なものでお客様の願いを叶えたのかと思っていたらお客様が「見える」と話していたのできっとそうなんだろうな。 そして桜がいってしまって、お客様はその場に散った桜の花びらに囲まれながらペタリと座り込んだ。 僕らはそれをただ見ることしか出来なかった。 「………有難う御座いました。」 暫くして、お客様がすくっと立ち上がりこっちの方を向いてお礼を言ってくる その姿勢は何処か凛々しい 「目は…もう見えませんね」 「さっきの数分が精一杯なんです。」 自身の目の近くを触れながらお客様が言うと心乃原さんは申し訳なさそうに返事を返す。 その心乃原さんの声色に気づいたお客様は首を横に振った。 「いいえ、本当に有難う御座いました。目が見えなくても彼との想い出は忘れません。忘れる筈がありません。本当に、彼と再び逢わせてくれて…彼の姿を見せてくれて…有難う御座います。」 お客様はまた頬に涙を流した。 でもそれは悲しみの涙ではなく、嬉しい方の涙だと僕は思う。 「――――さて、払わなくてはいけませんね。」 涙を拭いてお客様は話を替えた。 そうだ、このお店は命を払わないといけないんだった…正直言ってまだ色々と考えてしまうことがあるな… 「えぇ。」 「どれぐらい…」 「もうすでに払ってもらいました。」 「??すでに」 心乃原さんの言葉にお客様は首を傾げた。 僕もいつの間にとったのだろうと考えてしまう。 「私が貴女の目を見えるようにした時です。交換条件と似たようなモノだと思ってください」 「…解りました。ではどれぐらいの命を私は貴女に払ったのですか?教えてもらうことは出来ますか?」 「出来ません。それに教えたとしても貴女はそれを忘れてしまうので意味が無いんです」 「忘れてしまう…?」 「えぇ。『願いを叶えてもらった事』は忘れないけど『私に命を払った事』について貴女は忘れる。 思い出す時は貴女が死ぬ時 …次逢う時は貴女が亡くなる時よ」 「そう、ですか…でもずっと忘れるわけではないんですね?なら良いです。死ぬ前にもう一回あなた達にお礼が言えるんですから」 なら良いです。もう何度目かわかりませんが、本当に有難う御座いました。 願いを叶えて命を短くしたお客様が優しい優しい小さな笑みを浮かべて、言った。 |