目が見えない人の願い[前] (5/5) 「あ、帰ってきたわね灰々。おかえり」 「おかえり」 「えっ…」 僕が店へ戻るとたまたま玄関付近にいた心乃原さんと氷月さんとばったり会って、二人の言った言葉に驚いてしまった。 何でだろう… 「灰々?」 心乃原さんが覗き込むように僕を見る 「あ、えっと…おかえりって…」 「灰々は今日から此処に住むのよ?おかえりって言っちゃ悪いかしら?」 「いえ…とっても嬉しいです。何かとっても温かいんです。多分…記憶を無くす前の僕はおかえりってあまり言われてなかったのでしょうか…?…でも僕、居候の身だし…禍い者だし…」 多分、おかえりって言われてから心臓が凄いどきどき言ってる…これは吃驚では無くてきっと、嬉しくてどきどきしていて、心臓も嬉しいって言ってるのかな…?上手く表現出来ないや、でも嬉しい。でも僕は禍い者だし…きっと迷惑かけるし…そんな資格ないし… 僕は無意識に自分の心臓の音を聴くように胸の辺りを手で押さえていた。 そしたら心乃原さんはにまーっととても綺麗な顔で無邪気な子供の様な笑みをする。 そして… ぎゅっ! ―――――――――!? 突然ふわっと、何て言うのかな…上手く表せないけど優しい香りが僕を包んできた。 「バカね、今日から貴方はここに住むのよ?おかえりが当然なの。」 本当に吃驚して体が強ばっている僕に優しい香りの人…心乃原さんが抱きつきながら言う。 「で、でも僕…妖狐だし、九尾だし禍い者だし…きっと迷惑かけます」 「迷惑掛けてなんぼよ。良い?家主の私がそう言ってるんだから良いの。ほら私達がおかえりって言ったんだから、貴方は何て言えば良いのかしら?」 心乃原さんが僕を包みながら優しく言う。心乃原さんの言葉が僕の中に染み込むように、強ばっていた体が緩くなる。 「ただいま、戻りました…っ」 僕、一応男なのにまた泣いてしまった…でもお客様の前で見せた不安とは違う涙な感じがするから良いのかな?良いのかな…? 僕の返事を聞いて心乃原さんはここでも敬語?と面白そうに笑って、氷月さんも困った様に苦笑してからさっさと晩飯食うぞ。と言った。 こうして、この日から本当の意味で僕の不思議なお店での不思議な日々が始まりました。 了。 |