共鳴 本編 | ナノ


目が見えない人の願い[前] (4/5)




カランカランと、人がいない道にお客の下駄で歩く音が響く

その隣には、灰々がお客が転んでも大丈夫な様に緊張しながら並んで歩いていた。




「大変ねぇ貴方の様な若い子が、お仕事なんて。偉い偉い」

「え?」


突然言うお客に灰々が頭に?を浮かべながら言う。


「ふふっ可愛いわね。小さな子供見たい」

「そうでしょうか…自分でもよく解らないんです。」

「どういう事?良ければ教えてくれる?」



お客の問いに、灰々は間を置いてから今まで堪っていた疑問や不安を吐き出す様に声を震わせながら言い始める。


「僕、記憶喪失で…自分がどういう者だったか解らないんです。皆はとても頭が良い人だったと言うのですけど実感がわかなくて…僕、僕が何だか解らないんです。怖いんです…っ」


ぐすっと誰かが泣く音を聞き、お客は一瞬驚いてから音を頼りに灰々の頭に手をぽんぽんと置いて優しく撫でた。


「……………?」

「そうだったの。でも、大丈夫よ。」


灰々が目を開けるとしゃがんで自分と目線を合わせてくれている優しい顔をしたお客がいた。


「なんでそう言い切れるのですか?」

「だって、解らなくてもまた解れば良いでしょう?そして一度解らなくなったから新たに解る事もある。現に今灰々くんは不思議なお店で何かを学ぼうとしている。違う?」

「………違わ、ないです。」


「なら大丈夫よ。今は不安でも灰々くんは何かを解ろうとしていて、あの店主さんと店員さんも貴方を解ろうとしているわ、きっと」

「なんでそう言い切れるのですか?」


灰々が再び同じ問いをすると、お客は閉じていた目を開けて、きっと彼女には灰々の姿は見えなのに濁っているのにどこか澄んだ、綺麗な瞳で真っ直ぐと灰々を見据え、愉しそうに答えた。






「目が見えないとね、他のモノが視える様になるのよ」




じゃあ私はここまでで良いわ、有難う。また明日ね。とお客は言い杖を頼りに次の角を探し、曲がって灰々と別れた。



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