目が見えない人の願い[前] (3/5) 「理由は?」 数秒の沈黙の後、再び心乃原が客に訊く 「ある人の顔を見たいの。小さい頃から毎年桜が咲く数日間だけ、ある桜の木の下で逢っていたのだけどここ二年逢ってなくて…」 「何故見る必要が?話すだけなら見えなくても良いでしょう?」 「彼はね、そろそろ居なくなるのよ。」 「居なくなる…?」 灰々が小さく呟くとお客は「そう。」と頷いた。 「だから居なくなる前に一回で良いから彼の顔を見たい。それが理由よ。――――駄目かしら?」 「いいえ、私は願いを叶えるだけなので何も言えないです。」 「有難う…」 心乃原が言うとお客の伏せている瞳から静かに涙が一筋落ちて、空色の蝶の着物に吸われていった。 「早速仕事に取りかかりたいけど…もう夜だしねーお客様には悪いですけど明日また…と云う事で宜しいですか?」 少しの間を空けてから闇夜に月が照らされている外をチラッと見て心乃原がお客に向かって言うとお客は頷き、また明日来ますと涙を拭きながら言った。 「灰々、お客様を送ってさしあげて」 「はいっ!」 |