燦々と降り注ぐ陽の光、生ぬるい風、アスファルトの匂い、はたまた土の匂い、道が変われば様々な風景や匂い、出会い、発見がある。何よりコイツを漕いでいる時は嫌な事や考えていた事が風に乗って何処かへ行っている感覚になる。

俺はそれがたまらなく好きだ。


俺は所謂自転車バカってヤツで、暇な時はずっと自転車に乗ってる。自転車って言ってもママチャリとかじゃなくて競技とかするヤツ。限りなく速さを追究する自転車、ロードレーサーだ。
学校に行く時も、行く前も朝早くに何処かへ漕いで、放課後は自分が所属している自転車競技部で殺す気かって程練習して、帰るときもそれを漕ぐ。

それが俺の全てであり『世界』

そう思ってた。

でも『世界』はそれだけじゃないってことを近々俺は嫌でも理解してしまうのだろう。




休日に幼馴染みとロードで長い距離を走る事になった。競うとかじゃなくて、サイクリングみたいな、のんびり走って、少し遠くにある学生のお財布に優しい有名なB級グルメやら美味そうなモノを食べに行こうって計画だ。


一列になってゆったりとしたペースで海沿いを漕いで行く。海特有の匂いと風が心地よかった。
少し走った後にパーキングエリアがあったからそこで休憩して水分を取る。澄み渡っているいつもと変わらない空を眺めていると、変な感じがした。



ぐにゃりと一瞬だけど空が歪んだ。そんな気がして、つい有り得ないと首を軽く振って地面を見ると地面すら歪んだ様に見えた。隣にいる幼馴染みは気づいていない。寧ろ、俺を見て「大丈夫?」と心配してきた。



「みのる、熱中症にでもなった?」

「なってねぇよ。さ、あと距離半分だし行こうぜ!俺の大好きな長い坂が待ってる!」

「げっ。僕苦手だよー。嫌いではないけど…」

「今までお前が大好きな平坦だったろ!俺も平坦嫌いではないけど」


先頭に立って幼馴染みを引く様に俺は漕ぎ出す。今俺が感じた蜃気楼の様な歪んだ何か。こんな暑いのに寒気がした。それをかき消す様に俺はペダルを回して進む。

世界が何か気づくまであと少し。






・・・・・・・・・


「いやー、暑いねこの世界の夏は」

「にしてもアイツ、気づき始めたな。世界が何かって」

「まぁだ大丈夫だよ。赤里兄ちゃん。彼の夏はまだ壊れない。いつか壊れても、みのるは漕ぐのをやめないよ」

「…灯里、お前すっげー悪役キャラに見える」

「ひっどーい!!」




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